感染症別 正しいクスリの使い方

【サル痘】18人感染確認…日本では一般的に広く使える治療薬はない

サル痘ウイルス(CDC提供・共同)
サル痘ウイルス(CDC提供・共同)

 今月2日、東京都内の男性3人がサル痘に感染していることが発表されました。これで、国内では18人、2023年に入ってからは10人の感染が確認されたことになります。

 サル痘は、1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)で初めてヒトへの感染が確認され、国内では感染症法上の4類感染症に指定されています。オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスによる感染症で、天然痘ウイルスや牛痘ウイルス、ワクシニアウイルスの仲間です。

 アフリカに生息するリスなどの齧歯類をはじめ、サルやウサギなどウイルスを保有する動物との接触によるアフリカでの感染が中心だったのですが、患者の飛沫、体液(性的接触を含む)、皮膚病変(発疹部位)を介したヒトからヒトへの飛沫感染や接触感染も確認されています。2022年に始まった欧米を中心とした流行では、性交渉による感染が主とされ、8万5000人以上の感染例が報告されています。死亡例も90人を超える報告があります。

 サル痘の潜伏期間は5~21日(通常7~14日)とされており、潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、その後発疹が現れます。発疹は典型的には顔面から始まり、体幹部へと広がります。多くの場合、2~4週間持続し自然軽快するものの、小児例や、暴露の程度、患者の健康状態、合併症などにより重症化する場合もあり、致命率は0~11%と報告されています。治るとしても、1カ月もかかるのは長いといえます。

 WHO(世界保健機関)によると、現在報告されている患者の大部分は男性ですが、小児や女性の感染も増加しています。コンドームを使用しない男性間の性的接触による感染が多いことも指摘されていたHIV(エイズ)と似たような現象が起きている可能性も考えられます。淋病について取り上げたときにお話ししたように、性感染症の予防には、性行為の最初から最後までコンドームを使用することが有効とされています。

 サル痘に対し、国内で利用可能な治療薬はないのですが、海外には有効性が確認されている経口抗ウイルス薬があります。とりわけ「テコビリマット」は深刻な副作用もなく、欧米では天然痘やサル痘に対して使用可能となっています。英国で発生したサル痘患者がテコビリマットを服用したところ、治療開始から48時間でウイルス排出は止まり、10日間で退院できたという報告もあります。

 現在、日本では「特定臨床研究」として例外的にサル痘に対するテコビリマットの使用が認められていますが、さらなる対策が求められます。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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