Dr.中川 がんサバイバーの知恵

秋野暢子さんがブログで吐露…抗がん剤後遺症の痺れ対策に生活の工夫を

秋野暢子さん
秋野暢子さん(C)日刊ゲンダイ

「相変わらず足が痺(しび)れてます」

 食道がんで闘病中の女優・秋野暢子さん(66)は今月6日、こんな書き出しで自らのブログに近況を報告しました。読者の方が驚くのは、次の記述でしょう。

「今日、運動をご一緒した方が10年ほど前に乳がんになられて、やっぱり抗がん剤の後遺症で手足が痺れていたそうです。『手の痺れはわりと早くなくなったけど、足は10年かかったわ』とおっしゃった」

 がんの治療で抗がん剤を使うと、投与後に手足の先の痺れなどが生じることがあるのです。秋野さんが患った食道がんに用いられるシスプラチンでは、手足の先の痺れのほか痛み、耳の聞こえにくさ(高音域)が表れることもあります。

 知覚神経の通り道で、神経細胞が集まる後根神経節に、薬剤が蓄積されるため、神経細胞が直接ダメージを受け、さらに情報伝達の役目をする突起部分である軸索も2次的に障害されるため、感覚障害が起こりやすいとされます。

 シスプラチンの場合、治療後早ければ1~7日で発症。総投与量が500~600㎎/平方メートルを超えると、70%以上に出現するといわれます。総投与量が増えると、手足の痺れに加え、痛みを伴ったり、症状が全身に広がったりすることがあって厄介です。

 薬の種類によっては口やのどの痺れにより、まれに「のどが締めつけられる」「息苦しい」ということも。また、冷感刺激で症状が誘発されることもあり、冷たい水を飲んだり、冷たいものにふれたりして口やのど、手などが痺れることもあります。

 痺れの緩和にビタミンB12が処方されることもありますが、あまり期待できません。秋野さんのブログにあるように、改善されるのを待つのが現実です。

 しかし、日常生活を送る上で、手足の痺れは大きな障害ですから、生活の工夫が欠かせません。足が痺れて力が入らないと転倒リスクが高まるため、階段の上り下りでは手すりを使い、なるべくエレベーターやエスカレーターを利用するのが無難です。

 小さい靴は痺れを助長します。軟らかい素材で適切なサイズを選ぶことです。

 ハイヒールは、足先に体重がかかって転倒しやすいので、避けることをお勧めします。

 痺れが強いと、感覚が鈍くなり、ケガに気づきにくい。アウトドア作業では、手袋がケガ予防になります。

 前述したように冷感刺激はよくないので、冷たいものは持ち手のあるマグカップなどに移して飲むとよいでしょう。冷えは痺れの悪化要因。入浴やカイロなどで冷え予防が大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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