「肥満症」は治療が必要な病気 30年ぶりに新薬「セマグルチド」の承認が了承される

肥満症は治療で治せる
肥満症は治療で治せる(C)ロイター

 1月末、肥満症の治療薬として「セマグルチド(商品名ウゴービ)」の承認が了承された。発売されれば、1992年発売の「マジンドール(商品名サノレックス)」以来、約30年ぶりの新薬となる。日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」作成委員会委員長で、神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学教授の小川渉医師に聞いた。

 セマグルチドは、1週間に1回の注射薬。成人の肥満症の治療に使われる。ただし、太っていればだれでも対象になるわけではない。「BMI27以上で、健康障害(囲み記事参照)に2つ以上該当」または「BMI35以上」が対象。

「さらに、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかに該当し、食事療法や運動療法で十分な効果を得られない場合が保険適用の条件です」

 肥満症薬というと“それだけで痩せられる夢のような薬”を連想する人もいるかもしれない。

「この薬剤は食欲を強く抑制する効果を持ちます。ただ、糖尿病や高血圧の薬が『飲めばOK』ではなく十分な効果を得るためには生活習慣の改善が必要であるのと同様に、肥満症薬も十分な効果を得るために食事療法や運動療法との組み合わせが重要です」

 日本人を中心とした東アジア人の肥満症患者401例を対象にした最終段階の臨床試験では、週1回2.4ミリグラムの皮下注射で68週後には13.2%の体重減少を示し、20%以上減少した人もいた。しかしこれらは、病院で食事や運動についての指導を受けた上でのこと。

 使用期間については、まだ決まっていない。 

「臨床試験(前述)では68週だったので、それが継続・中止を判断するひとつの目安になるかもしれません。ただ、急に薬をやめたらリバウンドすることが臨床試験でも示されています。やめるとしても徐々にでしょう。ある程度長期にわたって使い続けるという選択肢もあると考えています」

■副作用の心配は?

 今回、承認が了承されたセマグルチドは、食欲抑制作用のあるGLP-1受容体作動薬という薬だ。副作用として、悪心、嘔吐、下痢、便秘などが挙げられている。

「これは食欲抑制作用の裏返しと考えられます。満腹の時に脂っこいものを食べると胃がムカムカするでしょう。GLP-1受容体作動薬は薬の力で満腹のような状態にするので、それゆえに胃のムカムカなどが起こる。ただ、服用前の十分な説明で、患者さんの不安はかなり軽減される。使っているうちに胃のムカムカを感じなくなるケースも多い」

 GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の治療薬としてすでに使われている。糖尿病の場合、セマグルチドは最高量が1ミリグラムだが、肥満症では2.4ミリグラムが最高量。

「肥満症では0.25、0.5、1、1.7、2.4ミリグラムと小刻みに5段階あるので、その加減で量を調整するようになるでしょう」

 糖尿病の薬といえば、SGLT2阻害薬も体重減少効果が報告されている。とはいえ、数キロ程度。今回のセマグルチドが臨床試験で示したような「マイナス13.2%」(80キロであれば、マイナス約10キロ)といった劇的な減少はSGLT2阻害薬ではみられない。

 子供の肥満症にも、今回の薬は使えるのか?

「海外の臨床試験では10代(12~17歳)の子供に対する効果が示されましたが、わが国では臨床試験は行われていません。ただ今後は子供の臨床試験も行われるかもしれません」

 肥満は、囲み記事で紹介している健康障害のほか、がん、胆石症、肺塞栓症、気管支喘息、男性不妊、胃食道逆流症、精神疾患といった病気のリスクを上げる。だからこそ、治療が必要。

「肥満を『自己管理がなっていないから』と考える風潮がありますが、それは間違い。体質、遺伝、環境など本人がどうしようもできない要因も関係している。肥満症は治療で治せます。専門医に相談してください」

 日本肥満学会のHPに認定肥満症専門病院が紹介されているので参考にするといい。

■減量によって改善することが研究で証明されている11の健康障害

 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞・一過性脳虚血発作、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常・女性不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)、肥満関連腎臓病

関連記事