老親・家族 在宅での看取り方

86歳心房細動の男性「悪化リスクはあってもできる限り家にいたい」

ベストではなくベターを目指す(写真はイメージ)
ベストではなくベターを目指す(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 地域包括支援センターの紹介で、先日から私たち診療所が訪問するようになった86歳の男性。奥さまと2人暮らしで、心房細動と非結核性抗酸菌症を患っていました。心房細動は、心房といわれる心臓の上の部屋が小刻みに震え脈が不規則になり、動悸、息切れ、倦怠感などの自覚症状をきたす病気です。また、非結核性抗酸菌症は、土やホコリなどの中にいる非結核性抗酸菌で起こる病気で、咳、痰に発熱などの症状が見られます。

 もともと某大学病院に通院されていたのですが、歩行が困難な上に、病気の影響で脚が腫れ、息苦しさもあり、通院を断念。入院ではなく在宅医療に、となったのですが、どうやら理由はそれだけではないようでした。

「もう入院はしたくないな……。あのS先生、なんかピンとこないんですよね。言っていることが。いつも同じような検査をして、同じようなことを言って、時間ばかりが経って。なのに予約の時間を3~4時間も平気で取らせて」

 開口一番、これまで通院していた病院に対する不信感を吐露する患者さん。一方、近くに住む娘さんは、下肢の浮腫、筋力低下、認知機能低下を心配されており、入院を希望されているご様子。

「今は要支援ですけど」(娘)

「今のご様子を見るともう少しレベルは上げて、区分変更してもいいかもしれません」(私)

「介護師さん? 看護師さんですか? それはどうすれば? 訪問診療と何が違うんですか?」

「訪問診療と訪問看護が重なっている部分はありますが、看護師さんは生活上で困っていることが何かということを重点的に考えてくれます。例えばお風呂をお手伝いしたり」(私)

「お風呂は夜ですが、看護師さんはできないですよね」(娘)

「夜は難しいですが、日中なら相談できると思いますよ。私たち在宅医療ではお薬を出したり、採血をしたり、医療的な部分が大きいですが、看護師さんから情報を聞いて、協力してやっています」(私)

 初めての在宅医療に戸惑いを隠さない娘さん。

「むくみが増しているということですね」(私)

「今朝ベッドから落ちて、立ち上がるのに3時間くらいかかって、足の太さが3倍くらいになっていますし」(娘)

「足がむくんじゃったのはさ、もっと入院中にリハビリやらせてくれなかったからだよ」(患者)

「もし今度、入院した場合もS先生が担当ですか?」(娘)

「もう入院したらしょうがないや」(患者)

「もっと悪くなるリスクはあります。でもできるだけ家にいたいわけですね」(私)

「そうですね」(患者)

「わかりました、では看護師さんも頻回に来てもらえるように指示を出しますし、もしも夜など苦しくなったら、当院に連絡をくだされば駆けつけます。その時点でお父さんは入院したくないとは言わないと思います。ただリスクはあります。搬送が間に合わないということもあるかも。ベストな選択ではないですが、お父さんのお気持ちを考えた上で、このやり方でやっていきましょう」(私)

 ご本人の希望によっては、ベストではなくベターを目指す。それも在宅医療ならではのやり方なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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