感染症別 正しいクスリの使い方

【おたふく風邪】ワクチンの効果は高いが日本では定期接種が中止されている

小児に多くみられるが、中には成人になってから罹患する人も
小児に多くみられるが、中には成人になってから罹患する人も

「おたふく風邪」は、ムンプスウイルスに飛沫感染や接触感染することで引き起こされる病気です。感染力が強い疾患として知られており、「流行性耳下腺炎」とも呼ばれます。耳の下に位置する耳下腺(唾液を作る組織)の腫れが特徴的な症状です。両側が腫れた場合に“おたふく”のように見えることから、おたふく風邪と称されています。発症した場合には両側が腫れるケースが多いですが、片側だけしか腫れない場合もあります。

 おたふく風邪は、保育所や幼稚園などで集団生活を開始したばかりの小児に多く見られ、6歳までの子供が発症例の半数以上を占めると報告されています。一度、感染することで生涯免疫が獲得されますが、中には成人になってから初めて罹患する人もいます。

 ムンプスウイルスに飛沫や接触により感染した後、2~3週間ほどの潜伏期間を経て、耳下腺・顎下腺の腫れや発熱などの症状が現れます。おたふく風邪の大きな特徴でもある顔の腫れは、唾液腺に感染したムンプスウイルスを排除するために炎症が起こることが原因です。

「子供の時に発症すると軽症で済む」などといわれるように通常は大きな合併症もなく自然に治癒することも多いのですが、小児でも頭痛や吐き気を伴う無菌性髄膜炎やムンプス難聴などの合併症を引き起こし、聴力障害や不妊などの後遺症が残る可能性もあるため注意が必要です。また、思春期以降の男性は精巣炎、女性は卵巣炎などの合併症も知られています。

 ムンプスウイルスに対する有効な薬は存在しないことから、ワクチンの予防接種がとても大切です。ワクチンにおける予防効果は高く、合併症の発生率も有意に低下させると報告されています。そのため、多くの先進国ではムンプスワクチンの定期接種が行われています。

 日本では1989年から麻疹・風疹・ムンプスの3種混合ワクチンが定期接種として導入されました。しかし、ワクチン関連の無菌性髄膜炎が発生したことを受け、1993年にムンプスの入った3種混合ワクチンの定期接種は中止されています。現在、日本小児科学会などではムンプスワクチンの安全性などを再検討するべく接種者を登録・調査しています。安全性が認められれば、再び定期接種になる道も見えてくるかもしれません。

 ただし、この調査は本年3月末までとなっています。1例でも多くの方の登録が必要です。1~6歳でムンプスワクチンを接種されるお子さんの保護者の皆さまも、担当の医師に協力の意思を示していただければ幸いです。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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