「愛は勝つ」などのヒット曲で知られるシンガー・ソングライターのKANさん(60)が、メッケル憩室がんであることを公表し、話題を呼んでいます。聞きなれない病名だけに、皆さんも驚かれたかもしれません。
憩室は、腸などの壁の一部が袋状に飛び出た突起物で、メッケル憩室は小腸の中間部分にあります。19世紀にドイツの解剖学者が初めて正確な記録を残したことから、その名前をとって名づけられました。
妊娠すると、卵黄管と呼ばれる管が胎児の小腸とへその緒をつないでいます。その管は通常、妊娠7週目くらいまでに閉鎖されますが、閉鎖されずに残ると、メッケル憩室になるのです。
消化管にできる形態異常としては最も頻度が高く、大体2%前後。胎児期の遺残物なので、後天的に発生することはありません。
ほとんどは無症状で、症状が見られるのは4%ほど。主な症状は腹痛と下血で、KANさんも昨秋、腹痛の原因を調べたことが診断のキッカケになりました。
患者さんによって出血、腸閉塞、憩室炎を起こすタイプに分かれます。出血は、一度に大量に出やすく、痛みなどもなく突然発症するのが特徴です。
このメッケル憩室にできる腫瘍が、メッケル憩室がん。がんの中でも非常にまれで、1例の症例報告で論文になることがあるほどです。
小腸は2メートルほどと長い上、胃からも大腸からも遠く、胃カメラや大腸カメラでは届きません。錠剤のように口から飲んで撮影するカプセル内視鏡が有効ですが、このがんは前述した通りかなりまれですから、積極的に勧められることはないでしょう。今回、見つかったのは幸運もあると思います。
それでもへその周りの痛みが続いたら、受診をためらうのはよくありません。KANさんも、「腹痛が数週間継続した」ことが診断につながっていますから。
肝心の治療は、腹膜などへの転移がなければ、手術が中心。がんがある部分を切除すれば治癒も十分可能です。小腸は長いので、20~30センチほど切除しても問題なく、胃がんなどの切除後に見られる体重の極端な減少もありません。
KANさんは4月からの公演を中止して治療に専念するそうですが、手術後に体力が回復すればライブ活動を再開できると思います。
Dr.中川 がんサバイバーの知恵