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認知症になると人格が変わるのはなぜ… 家族ができる対処法とは

認知症の症状には「人格変化」も…
認知症の症状には「人格変化」も…

 認知症の患者さんの症状として、物忘れや判断力の衰えのほかに「人格変化」があります。もともと穏やかな性格の人が急に暴言を吐いたり暴力を振るうようになったり、活動的だった人がひきこもりがちになるのが特徴です。家族からよく「人が変わっちゃった」と言われるのもこの症状です。

 人格変化は、感情をコントロールする前頭葉や、記憶と感情を生み出す側頭葉に障害が生じることで起こるといわれています。理性のコントロールが利かなくなり、普段抑え込んでいた感情を爆発させてしまうのです。認知症のタイプの中でも「前頭側頭型認知症」の人に最も多くみられます。

 また、認知症になると認知機能も低下するため、周囲とのコミュニケーションが難しくなります。その結果、患者さんは孤独感や不安を感じやすくなって性格も徐々に変化してしまい、きつい言葉や態度で家族に接するようになるのです。

 もともとの性格や生きてきた環境が、認知症の発症後の性格にも影響を与える可能性があるといわれています。ストレスやトラウマを抱えながら生活していると、性格の形成に悪い影響をもたらします。発症前から性格がきつい人は、さらに気難しい性格になるケースもあります。

 家族や周囲の人は、患者さんのもともとの性格や個性、育ってきた環境を理解すると同時に、人格変化は認知症の症状によって引き起こされていると認識することが大事です。患者さんがどうしたらストレスを感じにくい環境で生活を送れるかを考え、患者さんに寄り添い落ち着いた接し方をするのが好ましいです。

 認知症患者さんは、周囲の人からの対応で自分の人格変化に気付くこともありますが、認知機能障害が進んでいると気付けません。そのため、周囲の人は振り回されて、疲れてしまうケースが少なくありません。人格変化の対応で悩んだ際は、まずはかかりつけ医に相談し、各自治体の「地域包括支援センター」や「認知症の相談窓口」などに頼ることもお勧めします。

 認知症を発症する可能性は誰にでもあります。発症後に人格変化を起こしにくくするために、普段からストレスを抱えない生活を心がけるといいでしょう。自分を取り巻く人間関係が複雑な場合、発症後の人格変化に大きく影響をもたらすので、事前に整えておくことが大切です。

▽松井悠輔(まつい・ゆうすけ)2015年に慶応義塾大学卒業後、17年に国立病院機構東京医療センター脳神経外科、18年に国立病院機構栃木医療センター脳神経外科を経て、19~22年に慶応義塾大学病院、脳神経外科助教。21年に吉祥寺まいにちクリニック総合診療科勤務を経て、今年6月に北千住セブンデイズクリニック開業予定。

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