医療未来学者が語る 5大国民病のこれから

心筋梗塞の診断と治療はどう変わる? 再生治療で心臓は半永久的に動き続ける

写真はイメージ
写真はイメージ

 心臓の機能障害は高齢化が進む日本社会で最も多い疾患のひとつ。それを引き起こす原因のひとつが「心筋梗塞」だ。死亡率の高い急性心筋梗塞は急激に血管内がプラークや血栓などで詰まり、心臓自体を栄養する太い血管(冠動脈)の血流がなくなって栄養や酸素不足から心筋が壊死する病気のこと。心筋梗塞は日本人の死因の2位にランクされている。今後、診断と治療はどうなるのか? 「未来の医療年表」(講談社現代新書)の著者で医療未来学者である奥真也医師に聞いた。

「現在、心筋梗塞の治療には主に3つの方法の研究開発が行われています。①死んだ心筋を再生させる心筋再生治療②詰まった血管を補修する血管再建治療③心筋梗塞を起こした心臓にできたあとの心臓の線維化を抑制するための線維化抑制治療です。現在、それぞれに新たな技術が開発されており、それが完成すれば半永久的に動く心臓が可能になり、急性心筋梗塞を含めた心臓の機能障害による死亡も減少すると期待されています」

 ①と③については、すでに筋芽細胞シートによる心筋再生治療がスタートしている。肉離れしたとき、脚などにある筋芽細胞によって筋肉が素早く再生することに着目。患者自身の筋肉にある筋芽細胞をシート状に培養して心筋に移植することで、心筋を再生させるというもの。

 ただし、この方法では細胞の調達に時間がかかり、早期治療が必要な心筋梗塞治療には課題が残る。そのため、ハイドロゲルなどの人工物を注入する治療法の開発も行われている。これは、心筋細胞は柔らかい基盤で誘導されやすいという性質を利用して、高分子のハイドロゲルを損傷した心筋の周囲に注入することで心筋再生を早めようとするやり方だ。

 さらに培養した心筋細胞を移植する治療法、患者の細胞を使って新たな心臓を作る技術開発も進んでいる。

 ②は現在、心筋梗塞の治療で最も多く行われている治療法で、薬物を使った血栓溶解療法、狭くなった血管をバルーンなどで広げてステントなどで維持する経皮的冠動脈インターベンション、詰まった血管を回避して健全な血管同士をつなぐ冠動脈バイパス手術などがある。20世紀終盤から2010年ごろにぐっと進み、最近も新たな技術開発が進んでいる。

 ただ、薬物による血栓溶解療法は、血栓が完全に溶け切らず血管内に残って再び血管が閉塞することもある。胃潰瘍などの出血性の病気がある場合は血栓溶解剤を使えない。経皮的冠動脈インターベンションや冠動脈バイパス手術も時間が経てば再狭窄の可能性がある。そもそも冠動脈は石灰化するとセメントのように硬くなる。それを解決するのが古くて新しいローターブレーター治療。工業用ダイヤモンドの粒子をちりばめた米粒大の高速回転ドリルを血管内で前後させ、病変部を削り取る。30年以上前の技術だが、この治療法も重要だ。

 また、急性心筋梗塞は発症後の迅速対応の有無が救命に大きな影響を与える。その意味では住宅メーカーが開発を急いでいるスマートホームが救命の新たな武器になる。

「寝室やリビングなどに設置した非接触型のセンサーで心拍数や呼吸数をモニターし、異常があれば緊急通報センターに通知、オペレーターが安否確認を行い、必要があれば救急隊に出動要請し、玄関ドアを遠隔開錠する。こうした実証実験を一部住宅メーカーで行っています」

奥真也

奥真也

1962年大阪生まれ。東大医学部卒業後、フランス留学を経て埼玉医科大学総合医療センター放射線科准教授、会津大学教授などを務める。その後、製薬会社、薬事コンサルティング会社、医療機器メーカーに勤務。著書に中高生向けの「未来の医療で働くあなたへ」(河出書房新社)、「人は死ねない」(晶文社)など。

関連記事