月経前のひどいイライラや落ち込みには抗うつ薬SSRIが効果あり

写真はイメージ(C)PIXTA
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 月経前になると、イライラが止まらなくなったり、激しく落ち込んだりする--。もしかしたらPMSかもしれないと思いつつ、何の手も打たずにいる人も多いのではないか。

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 PMSとは「月経前症候群」。月経前に精神的または身体的不調が生じ、月経が始まると消える。PMSの中でも精神症状が主体で強いものを「PMDD(月経前不快気分障害)」という。

 PMS、PMDDは、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンが急激に減少することで起こる女性特有の抑うつだ。東京女子医科大学付属足立医療センター心療・精神科教授大坪天平医師が言う。

「PMDDはDSM-5(精神疾患の国際的な診断基準)で、うつ病と同レベルの抑うつ症候群とされています。疫学調査でPMSの割合は女性の20~50%、PMDDは2~17.6%。私が参加した国内の調査では、PMDDが4.2%という結果でした」

 PMDD患者の訴えでよくみられるのは、「ささいなことで激高する」「ひどい言葉を投げかける」「手や足が出てしまう(暴力を振るってしまう)」「泣きたいわけでもないのに涙が出る」「生きている意味や自分の価値を感じられなくなる」など。男性の中には「女性の病気。自分には関係ない」と思う人がいるかもしれない。

「PMDD症状の影響を受けるのは、夫、パートナー、母親、子供」(大坪医師=以下同)

 本人もつらいが、周囲もつらいのだ。大坪医師が担当するPMDD専門外来には、毎日のように患者が来るという。

 症例として印象に残っているものとしては「月経前の2日間だけ体がどうしても動かず必ず学校を休む真面目な有名女子校の生徒」「『PMDDの症状があまりにもつらく卵巣を取りたい。卵巣を取ってくれる医師を紹介してくれると思ったのに』と泣きながら訴える38歳女性」「PMDDの症状のせいで、20代の間、周囲も本人もボーダーライン人格障害だと思っていた30代女性」。

■服用直後から効果を実感

 月経のたび、つまり毎月のようにやってくるつらさ……。自分が、あるいは娘・妻・パートナーがもしかして、と思うなら、専門家に相談すべきだ。PMDDは治療法も確立されている。ひどいPMDD症状にも効果を発揮するのが抗うつ薬SSRIだ。

 SSRIは、脳内で神経伝達物質セロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの働きを増強する薬。セロトニンは幸せホルモンとも呼ばれている。うつ病では効果が表れるまでSSRIを服用してから2~4週間かかるが、PMDDでは服用直後に効果が表れる。

「その理由として考えられているのが、うつ病とPMDDで脳内の障害の程度が異なるということ。うつ病が『後シナプス受容体からセカンドメッセンジャーレベルの障害』であるのに対し、PMDDは『シナプス間隙のセロトニン量の障害』とされています」

 大坪医師は、PMDD発症の仮説を次のように説明する。

 PMDD患者は養育環境の悪さなどからもともとセロトニンの機構がもろく、シナプス間隙のセロトニンが減少。少ないセロトニンを何とか拾おうと、後シナプスセロトニン受容体は感受性が高まる。ここに月経前の女性ホルモン(エストロゲン)減少が加わる。エストロゲンが減少するとセロトニンも減るので、月経前にさまざまな精神症状が現れる。

「シナプス間隙のセロトニン量は、SSRI服用後数十分で上昇します。だから、SSRIの服用で速やかに効果が表れるのです」

 大坪医師はSSRIの処方パターンのひとつとして、間欠投与を採用。排卵日前後、月経前10~14日、月経前7日、月経前数日、月経前数日+月経後2~3日など、期間を決めて投与する方法だ。

 ほかには、連日投与や、連日投与+月経前増量という方法もある。いずれも薬で悪化した例はほぼなく、奏功率がかなり高いという。

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