Dr.中川 がんサバイバーの知恵

古村比呂さんがつらさを吐露 女性のがんは夫のサポート次第で夫婦関係に明暗

古村比呂さん(2011年撮影)/
古村比呂さん(2011年撮影)/(C)日刊ゲンダイ

 読者の中にも、妻ががんになってつらい思いをされた人がいるかもしれません。子宮頚がんの再々再発で闘病中の女優の古村比呂さん(57)は子宮の日(4月9日)に合わせてブログを更新。子宮を全摘したときの気持ちを吐露しています。

「子宮がなくなった自分はどうなってしまうのか。『女性は子宮で考える生き物だ』などと言う人もいます。だったら私は女ではないだろうか?」

 女性の尊厳について悩まれたことがうかがえるでしょう。女性が子宮や乳房を失うとき、どこまで女性性の喪失を感じるかは個人差が大きく、女性性よりがんがあることの嫌悪感から積極的に全摘を希望する女性も珍しくありません。

 しかし、それらを温存するかどうかはともかく、女性が悩むのは事実で、そのときの男性の対応次第で治療後の夫婦関係が左右されかねません。では、どうフォローするか。

 香川大医学部のグループは、子宮がんを全摘した12人と夫との関わりを調査。2020年の「香大看学誌」第24巻第1号に発表しています。

 それによると、術後に女性性喪失感を自覚していたのは5人。そのうち2人は、診断時まで子育てや家事などでギクシャクしていて夫婦関係に距離がありました。ところが、「生きてほしい」と言われたり、一心に気遣ってくれたりしたことに愛を感じ、喪失感のつらさや不安が癒やされたことで、夫婦の距離が縮まり、夫婦関係を再構築できたといいます。

 残りの3人は診断前まで夫婦関係が良好でしたが、夫のサポートの有無が明暗を分けました。1人の女性は夫につらさをぶつけると、夫は狼狽(ろうばい)。その夫は元々、女性への理解が浅いこともあり、その後、女性は苦しさを表に出せなくなり、術後は女性性を感じさせるものに怒りを感じたといいます。

 残りの2人は良好な関係のまま、夫が妻の病気を受け止め、しっかりと寄り添ったことで、喪失感のつらさが癒えたと報告しています。

 つまり、妻が女性性の喪失感を乗り越えられるかどうかは、夫の支えにかかっているということです。支えるとは、どういうことか。1つは、妻がつらい気持ちを楽に吐き出せる関係で、そのつらさを受け止めるのが2つ目です。その2つを前提に、妻への気配りや優しさ、病気の理解なども必要でしょう。

 ある女性は抗がん剤による脱毛を悲しみ、「髪が抜けても、一緒に寝てくれる?」と夫にメールしたところ、夫の「もちろん」の返事に安堵(あんど)し、うれしさを感じたといいます。

 もし妻が子宮や乳房のがんになったとき、これまで妻と良好な関係を築いた夫はそのまま優しく接すること。“失点”がある夫は、サポート次第で挽回のチャンスです。妻のがん治療への対応は、夫のその後を左右します。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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