名医が答える病気と体の悩み

会話ができない認知症晩期の患者で注意するポイントは?

ポジティブな言葉で優しいトーンで話しかける
ポジティブな言葉で優しいトーンで話しかける

 認知症の進行度を評価するスケール「FAST」によると、晩期は発症から3~4年後に訪れるとされています。晩期になると、言語機能が低下するため話せる言葉は数単語程度しかありません。同時に運動機能も低下するので患者さんはだんだん歩けなくなり、座っていることも難しく、最終的には寝たきりになります。認知症を発症すると神経細胞が徐々に死滅していくことから、これらの症状が起こります。

 晩期の患者さんの場合、寝たきりまで進行すると活動性が落ちて食欲も低下します。食事を取らなくなり喉の機能も弱くなって誤嚥性肺炎を起こし、そのまま亡くなるケースが多いです。誤嚥性肺炎を防ぐために、自力で食事が取れなくなった場合は点滴や人工栄養からの流動食を検討しますが、一方では非人間的であるという見方もあり、倫理的な課題になっています。

 流動食には、鼻からチューブを入れ、胃まで直接栄養を届ける「経鼻胃管」と呼ばれる方法があります。ただ、患者さんが自分でチューブを抜いてしまう可能性があり、入れ直すとなると医療従事者が行わなければなりません。代わりに、お腹に小さな穴を開けチューブで胃へ直接栄養を届ける「胃ろう」の方が、入れ直しのリスクはなく安全です。ですが、これにも倫理的な問題が付きまといます。

 晩期になっても感覚や感情は残っています。ですが、言葉を介したコミュニケーションができないため、痛みを感じていても言葉や行動で抵抗できず患者さんは我慢するしかありません。ただ、筋力が少しでも残っていれば痛みや不快感を感じた際に眉間にしわを寄せたりするので、介護者はこれを見逃さず患者さんの感情を読みとることが大切です。

 晩期の患者さんと接する際には、怒ったり責めたりせず、ポジティブな言葉を用いて優しいトーンで話しかけましょう。高齢になると高音が聞き取りにくくなるので、聞き取りやすいよう低い声で話しかけることを意識するといいでしょう。また、おむつの交換などの際にはオートフィードバックと呼ばれる、今行っていることを実況中継すると、「これから何をされるんだろう」といった患者さんの不安を取り除くことができます。

 晩期の患者さんはひとりで立ち上がることが難しいので転倒の危険性がなく、一日中介護する必要はありません。しかし、流動食の準備やおむつの交換は必ず必要になります。介護疲れで困った際には、訪問介護や訪問看護を頼ってください。

 また、1カ月約15万円で入居でき、みとりも多くされている在宅ホスピスも増えています。看護師は常駐していますが医師はいません。そのため、地域の訪問医師と連携を取りながら、入居中の患者さんの状態を適宜、見てもらうといいでしょう。

▽宇井睦人(うい・むつひと) 2007年、順天堂大学医学部卒業。都立病院で5年間の研修を受け、離島・へき地医療を含めた総合診療、また主にがん患者を対象として複数の緩和ケア病棟・緩和ケアチーム・在宅を含めた包括的な診療を学ぶ。医療現場でテクノロジーを活用したいと考え、デジタルハリウッド大学大学院に特待生として入学。初の単著「緩和ケア ポケットマニュアル」が19年の日本内科学会ベスト売り上げランキングにランクイン。

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