うつ病などの精神疾患でもないのに…急に怒りっぽくなった人に潜む病気

急に怒りっぽくなったら…(写真はイメージ)
急に怒りっぽくなったら…(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 人が変わったように急に怒りっぽくなった。そんな指摘を受けたことはないだろうか? たまたま忙しかったり、強いプレッシャーがかかっている状況であれば、短期的なストレスが原因かもしれない。しかし、そうした心当たりはなく、精神疾患もない。脳の萎縮で感情を制御する機能が失われ、もともとの怒りっぽい性格が現れ先鋭化するほどの年でもない。それなのに、短期間で性格ががらりと変わり、それが長く続くようなら、病気を疑った方がいい。弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

「怒りっぽくなる代表的病気が高次脳機能障害です。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳血管障害や頭を強く打ったことによる脳外傷、心肺停止による低酸素脳症など脳を損傷することで発症します。怒りやすくなるなどの感情障害に加えて、同じ話や質問をする記憶障害、ミスを連発する注意欠陥障害などの症状が起きます」

 この病気が厄介なのは患者本人も病気の自覚がなく、周囲も見ただけではそれとわからないことだ。そのため、患者本人と周囲の間で軋轢が生まれトラブルに発展することが多いという。

「そもそも多くの人は交通事故といったよほどひどい脳のダメージがなければ高次脳機能障害は発症しないと思い込んでいますが間違いです。人によっては軽い脳梗塞やちょっと頭を打った程度でも発症する場合もあります。中高年は注意すべき病気です」

 怒りっぽくなる病気は、ほかに低血糖や甲状腺の病気などがあるが、ぽっちゃり形の中高年は肝臓の病気も気をつけた方がいい。

「お酒やウイルス、脂肪肝などが原因で起きた肝臓の炎症を放置すると肝臓の細胞の破壊と再生が繰り返され、かさぶたのような硬い肝臓になります。これを肝硬変といいます。肝硬変になると肝機能が低下したり、肝臓を迂回する血液の流れ(シャント)ができたりして、さまざまな合併症が現れます。シャントができて肝臓を迂回すると解毒が不十分になって血液中のアンモニアが増加。それが脳に届くことで肝性脳症となるのです。肝性脳症にはさまざまな症状が現れますが、怒りっぽくなるのもそのひとつです」

 前頭側頭型認知症のひとつである「ピック病」も怒りっぽくなる病気だ。

「この病気は、40~60代の比較的若い世代が発症する『初老期認知症』の代表的疾患です。その主な症状は、笑っていたが突然泣き出してしまうなど、情緒が病的に不安定になる情緒障害や、温和だった人が突然怒りっぽくなるなどの人格障害、相手の話を聞かず一方的にしゃべるといった自制力低下などがあります」

■感染症が原因になることも

 更年期障害も怒りっぽくなる病気のひとつだ。更年期障害とは40代以降の男女の性ホルモン分泌量低下が原因となる自律神経失調症に似た症候群のことをいう。

「女性の更年期障害は一般的に閉経時期の前後5年に現れます。しかし、男性の場合は女性のようにハッキリした身体的変化を伴わないために診断が難しく、本人も気づかないうちに発症しているケースも少なくありません。女性はのぼせや顔の火照り、動悸や息切れ、異常な発汗などの身体的な症状の他に興奮亢進、イライラや不安感といった精神的症状があります。男性の身体的症状は全身の疲労感や倦怠感などであり、精神的症状は気分の落ち込み、イライラなどですが、先述したように急な怒りが更年期障害であることに気づかないケースも多いのです」

 ペットから感染する人獣共通感染症のなかにも怒りっぽくなる病気がある。トキソプラズマ感染症だ。

「この病気はトキソプラズマ原虫と呼ばれる寄生虫が寄生して感染する病気です。ネコとの接触や加熱不十分な肉の摂取などで感染します。人体に侵入したトキソプラズマ原虫は腸内の好中球に潜伏して脳に到達すると脳内の神経伝達物質の分泌量が変化して怒りっぽくなることがわかっています」

 ストレスなどないのに、急に怒りっぽくなったと感じたら病院で診察してもらった方がいいかもしれない。

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