第一人者が教える 認知症のすべて

入院した高齢者の3分の1がせん妄を経験…発症の半分は入院中に

入院した高齢者の3分の1がせん妄を経験
入院した高齢者の3分の1がせん妄を経験

 せん妄は、突然発症する精神機能の障害のこと。高齢者に特に多く、一般的な医療機関に入院した70歳以上の高齢者では、3分の1がせん妄を経験。その半分は入院時点でせん妄となり、残りの半分は入院中にせん妄を発症するといわれています。何かひとつの因子が関係しているというより、複数の因子が関係して引き起こされます。このせん妄、認知症との関連性が強く、双方に関連しています。つまり、せん妄があれば認知症になりやすく、また認知症がせん妄を生じやすくするのです。

 フィンランドの後ろ向きコホート研究では、せん妄がある人は認知症の発症リスクが高く、重症度とも関係している。そしてベースラインでせん妄の既往がある群は、そうでない群と比べて、認知症の検査「MMSE」のスコアが年間1点以上多く低下するという結果が報告されています。なお、MMSEは1問につき正解1点で、30点満点中27点以上取れば「問題なし」。それを下回ると「軽度認知症疑い」「認知症疑い」となります。

 また、イギリスの後ろ向きコホート研究では、せん妄が、2年後の認知症の有病率の増加と関連すると報告しています。

 せん妄は複数の因子が関係していると述べました。リスク因子は、「素因」と「促進因子」に分けられ、素因が多いほど促進因子が少なくてもせん妄を発症しやすくなります。高齢はせん妄素因のひとつですが、若者では問題ない促進因子でも高齢者にはせん妄を引き起こす引き金になることが珍しくありません。

せん妄の促進因子を除去し認知機能低下を予防
せん妄の促進因子を除去し認知機能低下を予防
せん妄の予防が認知機能低下の予防につながる

 せん妄とは、どういう症状か? 精神疾患の国際的な診断基準「DSM-5」では、「意識と注意の障害」「認知の全体的な障害」「精神運動障害」「睡眠-覚醒周期の障害」「感情障害」が程度に関係なく起こるとされています。

 具体的には、次のような症状が典型的です。

・ぼんやりしている、朦朧としている
・見えるはずのないものを見えると言ったり、いるはずのない人の存在を訴えたり、つじつまが合わないことを口にする
・注意力が散漫になる
・夜眠らずに興奮する
・睡眠と覚醒のリズムに障害が起こり、昼夜逆転になる
・突然怒り出す、泣き出す、夜に興奮状態になるなど、感情が不安定になる

・入院中、点滴やチューブを自分で抜いてしまう

 せん妄と認知症は双方に関連すると述べましたが、現時点で認知症ではない場合、せん妄と認知症を区別して考える必要があります。せん妄の促進因子をできる限り除去することでせん妄を予防し、認知機能低下に結びつくのを回避するのです。

 せん妄と認知症の違いとしては、まずせん妄の発症は「急激に」起こること。初期症状は「幻覚、妄想、興奮」であり、認知症の「記憶障害」とは異なること。

 また、せん妄は「夕刻から夜間に発症することが多い」のですが、認知症ではそういった変動は少ないです。せん妄の症状は一過性で、数時間から数日でなくなります。改善した後は、発症前と同じ状態に戻っています。認知症で認知機能が低下している場合は、そうはいきません。

 なお、せん妄には、3つのサブタイプがあります。過活動型、低活動型、混合型です。かつては、過活動型がせん妄の一般的なタイプと考えられていましたが、全体の25%ほどで、ほとんどが低活動型だといわれています。

 その特徴は次の通りです。

【過活動型】

 24時間のうちで運動活動量が増加し、活動コントロールが障害される。入院中に安静を保てず、安全面で問題になることもある。

【低活動型】

 24時間のうちで、活動量・発語量の低下や活動速度・発語速度の低下などが見られる。

【混合型】

 24時間のうちで、過活動型と低活動型の両方が見られる。急速に変動することもある。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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