中絶が事実上違法のテキサス州で、経口薬で中絶した元妻と別れた夫、友人の女性2人を巻き込んだ訴訟合戦が泥沼化しています。
昨年6月、最高裁が女性の中絶の権利は憲法では保障されず、各州の法律に委ねられると判断して以降、アメリカの約半数の州で中絶が事実上禁止されるか、禁止の方向に動いています。
テキサス州では妊娠早期6週間以降の中絶が違法ですが、多くの女性はこの時期までに妊娠に気づかないことから、事実上の禁止と考えられています。
注目すべきなのは、テキサス州では違法な中絶を当局が取り締まるのではなく、州民の手に委ねていることです。つまり誰でも中絶に関わった州民を訴えることができ、もし勝訴したら最低でも1万ドル(135万円)の「賞金」を受け取ることができます。また訴える対象は中絶した本人ではなく、それを助けた医者や本人を運んだ車の運転手などだということが、際立った特徴です。
この理不尽にすら思える法律を適応した訴訟が、早くも起こっています。
この訴訟は元夫が、「元妻の中絶行為を助けた友人女性2人には、胎児の死に対して責任がある」と訴え、それぞれに対し1人100万ドル(1億3千万円)もの支払いを請求しています。もし元夫が勝てば、「胎児にも人間と全く同じ人権がある」という中絶反対派の悲願が認められることにもなり、それにより女性の権利がさらに狭まることを警戒する声も高まっています。
ところがこれに対し、訴えられた方の友人女性たちが逆に元夫を訴えたことで、事態はさらにややこしくなりました。
元夫は、2人の友人と中絶を受けた本人とが交わしたショートメールを、最も重要な証拠として提出していました。しかし今回友人女性たちは「これらのショートメールは本人の許可なく無断で閲覧されたもので、プライバシーの侵害だ」と訴えたのです。もしこれが認められれば、元夫はこれを証拠として使えなくなることになります。
中絶をめぐって泥沼となった訴訟合戦がどこに着地するのか、全米が固唾を飲んで見守っています。
ニューヨークからお届けします。