在宅医療を開始したことで、これまで見過ごされていた問題が明らかになることがあります。
そのひとつがポリファーマシー問題です。ポリファーマシーとは、多くの薬を飲むことで、薬の相互作用、飲み間違い、飲み忘れなどで引き起こされる有害事象を指します。
この問題が顕在化してきた理由は、在宅医療が患者さんの自宅に上がり込み、患者さんの生活にある程度コミットすることで、薬の量や内容、患者さんがちゃんと服薬しているかなどを、医師が直接確認することができるようになったからです。
その患者さんは、旦那さんと娘さんと3人暮らしをする85歳の女性の方。
直腸がんで手術を受けており、人工肛門を装着。子宮体がんもあり、子宮内膜から発生したがんが周囲の子宮筋層の中に入り込んでいく子宮浸潤を起こし、バイパス術を受けていました。
「本日はご体調いかがですか?」(私)
「えぇ、変わらずです」(患者)
「お薬手帳はございますか?」(私)
「どこかにいってしまって……。後日、お見せしますね」(娘)
「急ぎませんので!」(私)
「あっ! ありました!」(娘)
お薬手帳は、患者さんにどのような薬が処方されているのかがわかる、薬の記録帳。しかし、このありさまです。果たして処方された薬をちゃんと服薬しているのかが心配になり、お話を伺うと意外なことがわかってきました。
「C病院しか受診できないんですか?」(娘)
「受診される病院はどちらでも」(私)
「セカンドオピニオンを希望していて、D病院にも行く予定です。どうもC病院は簡単に診て、安易に薬だけ出すっていう感じがして」(娘)
「訪問診療は病院まで行かなくていいというメリットがございますが、しっかり検査したいのであれば病院に行っていただいたほうが。もちろん病院と並行して在宅医療は継続できますので」(私)
「そうですね」(娘)
「お薬は今、お手元にありますか?」(私)
「今は見当たらないんです。大量にはあるようですが」(娘)
「いっぱい出されたんです」(患者)
在宅医療では、しばしばこの患者さんのように、処方されているのにちゃんと服用されず、冷蔵庫や棚の奥から手つかずの薬が見つかるなんてことも。
あくまでも服薬は自己管理が基本ですが、そのためにも患者さんご自身が、どんな薬を飲んでいて、どんな治療に効果が期待できるのか、などの認識は最低限必要になります。
いずれにしても、問題の本質は、医師と患者さんの間で意思の疎通があるかないか。処方薬に関しても、患者さんが理解し、納得、安心できることが重要だと考えます。そうでなければ気になって療養を前に進めることができない場合もあります。
これまで埋もれていた患者さんが抱える不安や疑問を拾い上げる。処方薬の問題もそのひとつ。飲み忘れがあるなら、それはなぜなのか。解決策はないのか。一番ベターな方法を患者さんやご家族と一緒に探っていくことも在宅医療の役割です。