老親の「多剤併用問題」対策のポイント…薬5種類以上で転倒リスクが増える

何を服用しているのかと、薬の副作用も理解する
何を服用しているのかと、薬の副作用も理解する

 高齢者の多剤併用が問題なのは、薬剤費の増大もさることながら、薬剤相互作用、飲み忘れや飲み間違いなどから、薬物有害事象のリスクが増えることだ。

「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では、「1種類でも服用回数や1回の服用錠数が多ければ影響は大」とし、「6種類以上で薬物有害事象のリスクは特に増加」「5種類以上で転倒の発生率が高かった」と記載されている。

 多剤併用の問題点に気づいたきっかけを語るのは、東京・大田区を中心に在宅療養支援を行う「たかせクリニック」の高瀬義昌理事長。

「パーキンソン病では、進行に伴い咀嚼能力が落ち、薬を飲めなくなってくる。その中には、かえって意識がはっきりし、調子が良くなる方がいるのです。次第に薬の量に問題があるのではないかと考え始めました」

 調べるにつれ、次のような背景が見えてきた。

 それは、「イライラする、食欲がないなど医師に不調を訴える」→「ドグマチールという薬を出される」→「薬の副作用であるふらつき、手の震え、下肢のだるさ、すり足、歩幅が狭くなるといったパーキンソン病で見られる症状が出てくる」→「病院でパーキンソン病と診断され、薬が処方される」→「薬の副作用で認知機能低下。病院で認知症と診断され、薬が処方される」──。

「結果、多剤併用になる。こうなる原因は、薬の副作用がきちんと説明されていないこと、患者さん、医師、薬局との間で薬の情報を共有できていないこと。一般的に薬はお薬手帳で管理されるわけですが、手帳が薬局ごとに違うと、何が処方されているのか分からなくなってしまう。患者さん自身も何を服用しているのか把握していない」(高瀬理事長=以下同)

 対策として、次のことが重要だ。患者本人はもちろん、高齢者で認知機能が低下している場合もあるので、家族も、念頭に置いておきたい。

■多剤併用の問題をしっかり認識する

「患者さんによっては、薬をたくさん出してもらった方が安心、という方もいます。どんなにいい薬にも副作用がある。まずは、不要な薬は飲まない方が健康のためになる、と認識すべき」

■お薬手帳を1冊にまとめる

「処方薬の情報を一元化する。手帳は継続して使用することで、過去の処方歴も一目瞭然です」

■薬剤師に同じ成分の薬が重なっていないかチェックしてもらう

 たとえば、整形外科と内科を受診している場合、それぞれの科から鎮痛剤と胃薬が処方されていることがある。同じ成分の薬が重なって処方されているなら、主治医に伝え、減らしてもらう。

「何剤から多剤というのか、厳密な基準はありません。病気の数が複数ある患者さんでは、薬が多くても適正な処方であり、多剤併用にあてはまりません」

 相談する薬剤師に迷ったら、厚労大臣が定める一定基準を満たし、かかりつけ薬剤師・薬局の役割を担う「健康サポート薬局」に行くといい。

■必要に応じてポリファーマシー外来を受信する

 ポリファーマシーとは多剤併用のこと。大学病院を中心に、ポリファーマシー外来を設けるところが出てきている。

「少なくとも自分が飲んでいる薬の情報を調べることは良いことだと思います。自費で数万円ぐらいかかっても、その価値があると思っています」

 あるケースでは、薬の処方数を見直したところ13種類から4種類になり、患者の認知機能が改善しQOL(生活の質)もアップ。薬代が年間30万円ほど浮いたという。

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