「おうちに帰ってきて困っていることはありますか?」(私)
「だるさがあったんですけど食事もお風呂もできているので大丈夫です」(患者)
「痛み止めのお薬(フェントステープ)で眠気はありますか?」(私)
「はい。普段から食後は眠気がありましたが今のところは問題ないです」(患者)
「わかりました」(私)
「急性骨髄性白血病」を患う患者さん(65歳)の在宅医療が、先日始まりました。ご主人と2人暮らしの女性です。
それまで抗がん剤治療(化学療法)を受けてきた病院では、通常の化学療法だけでは治せない血液がんなどに対して行う「造血幹細胞移植」が難しい状態との診断。余命1~2カ月と告げられていました。
女性とご主人は、残された時間を自宅で過ごそうと、具体的な白血病治療は受けないことを決めました。そして、自宅で輸血を受けられること、痛みのコントロールができることを条件に、病院から紹介された在宅診療所の中から、ご家族がネットなどで独自に調べられ、私たちの診療所を選んだのでした。
輸血を在宅医療でも実施する診療所があるということを、ご存じない方は少なくありません。通院で輸血を受ける場合、患者さんは早朝から病院へ出向く必要があります。採血、検査、結果報告、輸血……と、病院での滞在時間は長くなり、患者さんの負担が少なくありません。
その点、自宅での輸血であれば、前日までに採血、その検体を診療所に持ち帰り検査会社が夜のうちに検査、次の日の朝には結果が出て、結果に異常がなければ、血液製剤を持って患者宅に訪問し、輸血を実施--と、通院する場合に比べて患者さんの負担、ご家族の負担が大幅に減少します。
「輸血ってどのくらいの時間がかかりますか?」(患者)
「そうですね、30分~1時間以内で終わります」(私)
「わかりました」(患者)
輸血の手間が思った以上にかからないことを改めて理解し、安心されたご様子。
「輸血は以前の病院でも週1~2回はしていました」(患者)
「承知しました。今後のことについてなのですが、我々が伺う頻度が通常は2週に1回ですが、患者さんの場合、輸血があるので、最低でも1週に1回以上になると思います。そしてこの定期訪問プラス24時間365日、異変があればいつでも連絡を受け付けています」(私)
「夜中でも休日でも大丈夫なんですね。安心です。お願いします」(患者)
患者さん側と話し合いを持ち、その状況に合わせて療養プランを組み立てていきます。
「入院中にカビで肺炎になったんです。カビ菌に対して、薬を飲む必要はありますか?」(患者)
「でも3割負担ですよね。訪問薬局に送料がかかってしまうので、極力処方は少ない方がいいですよね? 確かお知り合いの漢方薬局の薬もご提案されていましたが、差し支えないと思います」(私)
在宅医療では自宅に上がり込み、その患者さんの療養状況を実際に医師がその目で確認するため、処方される投薬管理が確実になるというところがあります。
「家族が輸血の時にやることはなにかありますか?」(夫)
「特にないですよ。お薬だけ忘れず飲んでいただければ」(私)
「自分が不器用なので」(夫)
ご家族と一緒に療養をひとつずつつくり上げていくのが在宅医療の姿なのです。