潰瘍性大腸炎とクローン病の総称「IBD」とはどんな病気? 患者推計は29万人

写真はイメージ
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 先月19日は、世界では「World IBD Day」と制定されており、日本では「IBDを理解する日」。2013年に患者団体と製薬会社「アッヴィ合同会社」がIBDへの理解を広げることを目的に制定した。IBDとはどういう病気か? 北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター特別顧問の日比紀文医師に聞いた。

 IBDは、日本語では炎症性腸疾患。潰瘍性大腸炎とクローン病の2つを総称してIBDと呼ぶ。比較的若年に発症することが多い。

「IBDの患者数は決して少なくありません。2018年の疫学研究では、潰瘍性大腸炎は推計22万人超、クローン病は推計7万人超。IBDの患者さんは、29万人ほどになるのです」(日比医師=以下同)

 IBDは国の定める指定難病の中でも患者数が多い疾患として知られており、その患者数は年々増加傾向にあるという。

 一方で、IBDの認知度は低い。2020年実施の意識調査では、社会一般の9割がIBDについて認知していないとの結果が出た。今回この記事を書くにあたって記者が周囲に聞いてみると、「胃腸関連の病気?」「安倍晋三がかかっていた?」「聞いたことがない」といった返答が多かった。

 IBDのひとつ、潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜が炎症でただれる原因不明の病気だ。記者の周囲の何人かが挙げた通り、故・安倍晋三氏が患者であることを公表していた。

「根本的治療法はなく、症状が良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返しますが、ほとんどの人が適切な治療で通常の生活を送れるようになってきました」

 クローン病も、原因不明の炎症性の病気だ。消化管のどこにでも炎症は起こるが、特に小腸、大腸、肛門周囲に起こる。やはり根本的治療法はない。潰瘍性大腸炎と似ている部分があるが、明らかに違う病気だ。

 専門医や厚労省の研究で症状については調べられ、ガイドラインに記載されている。それには、潰瘍性大腸炎は下痢・軟便、血便、腹痛、体重減少、倦怠感など。また、クローン病は腹痛、倦怠感、下痢・軟便、体重減少、食欲不振、血便などとあるが--。

「患者さんを対象に行った調査では、医療従事者に最も言いづらい症状として、潰瘍性大腸炎もクローン病も、突然かつ急激な排便の必要性を感じる『便意切迫感』が挙がった。ガイドラインでIBDのさまざまな症状を取り上げているつもりが、これは含まれておらず、私たちも理解していなかった。医療従事者と患者さんの間でコミュニケーションギャップがあったのです」

 コロナが落ち着き、旅に出かける人、予定をたてている人も多いだろうが、その旅行時の移動について、患者団体「NPO法人 IBDネットワーク」にはこんな声が寄せられている。

・トイレが不安で、公共交通機関ではなく車の移動が多い
・駅構内のトイレは混むので、移動中の車両内のトイレがあればそこで済ませる
・新幹線や飛行機などはトイレに行きやすいよう必ず通路側の席
・海や山など、トイレがない場所を旅行の目的地にするのは躊躇する
・釣りやキャンプなど、病気がなかったら行ってみたい

 30代前半で潰瘍性大腸炎を発症した40代女性はこう話す。

「症状がある時は、トイレの回数は1日10回を超えた。旅行先は人が多く、トイレが混んでいる。トイレの心配や疲れやすいことが理由で心底、楽しめない。車には防災用の簡易トイレを常備し、急な腹痛が心配で、トレーニングパンツやナプキンを着用することもある」

 IBDは、かつては治療法が限られており、コントロールが難しかった。しかし現在は、新しい機序の薬が登場し、治療の選択肢が増えている。「治癒(=完全に治る)」は難しくても、「寛解(=症状が消えた状態を保てる)」は可能なのだ。

「寛解期にはほぼ普通の生活を送れる。ただ、便意切迫感については、薬で頻度は減るものの、なしにはできず、外出時には不安が残る場合もある。患者さんが困り事を抱えている部分には、一見健康そうに見えるため、IBDへの理解が及ばない点がある」

 IBDについて知ることが、IBDの人も生活しやすい社会につながると言える。

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