Dr.中川 がんサバイバーの知恵

俳優の三宅弘城さんは妻の看取りを告白…末期がんの激痛は拠点病院の支援室に相談

自宅での妻の見取りを告白した三宅弘城さん
自宅での妻の見取りを告白した三宅弘城さん(C)日刊ゲンダイ

「一年前の今日、2022年6月13日、妻が天国へ旅立ちました。膵がんでした。(中略)妻、49歳でした」

 妻の一周忌に合わせ、伴侶を失ったことをツイートしたのは俳優の三宅弘城さん(55)です。妻亡き後、迷っていたものの、前に進むためこのタイミングでの公表を決意したとのこと。晩年は在宅介護で、「体力的にも精神的にもすごくキツかったけど、夫婦で精一杯闘いました」と語っています。

 おっしゃる通り末期がんの在宅緩和ケアは大変だったと思いますが、自宅で妻を看取ることができたのは何よりでしょう。厚労省の調査によると、64%が自宅での最期を希望しながら、2020年の自宅死亡率はわずか16%(厚労省「人口動態調査」)。7割は病院で亡くなっていますから。

 では、末期がんの患者さんが在宅緩和ケアを受けるときの状態は、どうなのか。東北大などの研究チームの報告によると、平均年齢は72歳で、5段階に分かれる全身状態は3で日中の50%以上をベッドかイスで過ごします。最悪の4の一歩手前ですから、かなり制限された状態です。がんの種類は、呼吸器系、肝臓、胆のう、すい臓、消化器系の順。

 身体的な苦痛として問題なのは、食欲低下がトップで痛みが続きます。いずれも6割前後。今回のすい臓がんの場合、末期になると周辺にある十二指腸や大腸を圧迫するため、食欲低下を招きやすい。口からの摂取が難しく、栄養や水分を点滴で行うゆえんです。

 どのがんでも末期は痛みが強くなりますが、特にすい臓がんの痛みはひどく、寝返りもつらいほどです。そのため、モルヒネに代表される医療用麻薬を用いますが、量が増えると意識が薄れてほぼ寝たきりになることもあります。介護する人には、栄養が取れず衰弱するのも、痛みに苦しむのもつらいでしょうし、寝たきりも残念でしょう。

 そんな状況を改善するひとつが神経叢(そう)ブロックで、痛みの神経伝達を抑えるため劇的な効果があります。すい臓がんの激痛で寝たきりだった人が、これで改善して歩けるようになり、日常生活を送れるように。何より意識がハッキリして、会話ができるのが大きい。

 痛みが強いケースは在宅緩和ケアに入る前に、この神経叢ブロックをすることがお勧めです。すい臓がんは毎年約3万8000人が亡くなりますが、神経叢ブロックを受けるのは300人ほど。効果的な治療法が知られていないためです。

 乳がんや前立腺がんなどが骨に転移した場合も痛みがつらいですが、放射線で最大9割が緩和できます。これも知らずに苦しんでいる方が少なくありません。

 前述の調査で在宅日数は平均40日。限られた時間を有意義に過ごすにはこれらの治療法を検討するのが無難です。全国のがん診療連携拠点病院には、がん相談支援室があります。支援室は病院の患者でなくても利用できるので、分からないことは相談するとよいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事