医療だけでは幸せになれない

マスクの効果を評価したランダム化比較試験 0.3ポイントでも条件が変われば…

日本はお国柄、比較的にマスク着用に抵抗がない
日本はお国柄、比較的にマスク着用に抵抗がない(C)日刊ゲンダイ

 今回はマスクの効果を評価したランダム化比較試験について紹介しよう。ようやく、やっとのことでというか、あるいはすでに読むのをやめてしまった人が多いかもしれないが、やめてしまった人がまた戻ってきてくれることも期待して、話を続けよう。

 まず言っておきたいことは、マスクの効果を評価したランダム化比較試験と言っても、バイアスのうち交絡因子が考慮されたにすぎないし、さらに医学情報のうちでも一部に過ぎないということである。

 マスクの効果について考え判断するためのほんのひとつの情報であって、ランダム化比較試験の結果がすべてではないことを自覚しておくことが、まず重要である。

 新型コロナ感染症についてのランダム化比較試験は多くない。私が探すことができたのは2つに過ぎない。日本での研究はない。デンマークとバングラデシュの研究である。それ以外にもあるかもしれない。新たに見つかればまたこの連載で紹介できるだろうから、今回はとりあえずこのうちデンマークの研究について見てみよう。

 デンマークの研究では、仕事上でマスクをする必要がなく、1日のうち3時間以上を自宅以外で生活する成人を対象に、自宅以外で着用するようマスクの支給を受けたグループと、マスクを推奨しないグループとを比較して、1カ月間の新型コロナ感染症を検討したランダム化比較試験である。

 コロナ感染についての結果は、マスク推奨群で1.8%、マスク非推奨群で2.1%という結果である。どちらも2%前後で大きな差はないというところだろうか。

 しかし少しでも感染リスクが少ない方がいいと考えるならば、マスク推奨群の方が0.3ポイント少ないという結果でもある。

 もう少し詳しく見ていこう。

 この研究のマスク推奨群は、マスクを着けるように勧めるというだけで、実際に着けているかどうかとは異なる。事実、マスク推奨群でマスクを着用していたのは47%に過ぎず、マスク非推奨群でも7%はマスクを着けていたとの記載がある。

 もともとマスク着用に抵抗がある国では、マスクを勧められてもしない場合も多く、マスクの効果を過小評価する結果が出やすい面がある。

 もしこの研究が日本で行われたならばマスク推奨群では100%近い着用が実現されたかもしれない。ただマスク非推奨群も結果的にはみんなマスクをしていたという可能性もあり、研究そのものが成り立たない可能性も高い。これから新たに日本でマスクの効果を検討するためのランダム化比較試験の実施は無理というのが現実である。

 日本の研究でないから意味がないというような意見も聞かれるが、それは困難だ。諸外国の研究をどう参考にするかというのが現実的な対応である。

■結果解釈のむつかしさ

 さらに結果の方も少し違った角度で見てみよう。

 この研究は1カ月の感染者で比較しているが、これが1年であったとしたらどのようなことが予想されるであろうか。もし1年間で10倍の人が最終的に感染するとしたら、マスク推奨群では18%、マスク非推奨群では21%ということに。さらに3年間であれば54%と63%ということになる。

 それも実はマスク推奨群では半分に満たない人しかマスクをしていない状況である。さらにこれが100万人の都市であれば54万人と63万人の差となり、マスクを勧めることで3年間の感染者が9万人少ないということになる。

 東京のような1000万都市では、その10倍の90万人の感染者減少になる。地球規模で考えればとてつもない数になることは誰にでもわかるだろう。

 ランダム化比較試験で効果がないという結果が出ているとなると、鬼の首を取ったように「最も質の高いランダム化比較試験で効果なしと出ているのにマスクを着けるのはバカげている」と言い出す人が出てくるが、上記で見てきたように、事はそう単純ではないのである。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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