老親・家族 在宅での看取り方

92歳男性患者…誤嚥を繰り返しても肉まんや餃子を口から食べたい

患者や家族と一緒に悩んで考える
患者や家族と一緒に悩んで考える

 92歳になる男性患者さんは中国残留孤児の方で、都内の団地に中国人の奥さまと2人暮らし。がんを患い、治療は成功したものの、体が衰弱し、徐々にベッドにいる時間が長くなっていました。ご本人と奥さま、そして近くに住む娘さんは日本語がほとんどできないため、私たちの診療所の中国語対応スタッフ、または日本語がわかるお孫さんがいる時に、診療を行うことになりました。

 病院の先生からは「誤嚥性肺炎を繰り返す恐れがある。口から食事を取るのはもうやめて、胃ろうをつけてはどうか」との提案があった様子。しかし、患者さんは食欲があり、最期まで食事をしたい。ご家族も同様で、肉まんや餃子を食べて元気になってもらおうと一生懸命でした。患者さんとご家族が在宅医療にこだわったのも、「食事をしたい。好きなものを食べたい」という希望をかなえるためでした。

「むせ込みのチェックをさせていただきたいです。普段から食べているものがあれば持ってきてもらっていいですか」(私)

「これ(肉まん)を普段は食べています」(娘)

「ゲホゲホする時とかありますか?」(私)

「入院している時はありました。でも今は特に……」(娘)

 まずは嚥下機能評価をし、少しでも食べられる要素がないか検討することから始めることとなりました。

「退院してから肉まんを食べたのは初めてですか?」(私)

「昨日も1つ食べました。昨日は確か自分で食べたいって、でも怖いから1個だけにしたんですけど」(娘)

「食べられるなら食べてもらった方が点滴もしなくてよくなるし、いいと思います」(私)

「吐いちゃうのが怖くて」(娘)

「吐いたのはひょっとして、熱が出て気分が悪い時に食べちゃったからかなって思います。肉まんってパサパサしているので、嚥下機能が低下している人は絶対に食べられないと思うんです。それが今は問題なく食べられていますから」(私)

「水分の方がのみ込めないですね」(娘)

「サラサラしたものがのみ込めないっていうのは、塊じゃないと奥に行かないってことで、ゼリーとか、とろみをつけるとかで塊にした方がいいと思います」(私)

 そこにわずかでも可能性があるのなら、患者さんとご家族のご希望をかなえるために一緒に悩んで考えます。

「あーって言ってみてください」(私)

「ああー」(患者)

「大丈夫そうです。喉に引っかかった時はがらがらって聞こえるんですけど、それはないですから」(私)

 いったんこの段階で食事を許可しましたが、その後もまた誤嚥を繰り返すように。でも患者さんは食事をあきらめず、奥さんは肉まんや餃子を食べさせ続けているのです。

 在宅医療を始められる方にはさまざまな思いやこだわりをお持ちの方がいらっしゃいます。たとえそれがすごくささいなことであっても、ご本人にとっては大切なことだということを、私たちは理解しています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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