Dr.中川 がんサバイバーの知恵

特殊な膵臓がんでは手術で5年を超える延命も 旅行系YouTuberみずきさんが手術成功を報告

旅行系ユーチューバーのみずきさんと夫のこうへいさん(本人のインスタグラムから)
旅行系ユーチューバーのみずきさんと夫のこうへいさん(本人のインスタグラムから)

 膵臓がんでステージ4と診断されたことを公表していた旅行系ユーチューバーのみずきさんについて、夫のこうへいさんが妻の手術成功を報告したことが話題になっています。診断当初は全身にがんが転移していて、抗がん剤治療でがんが縮小したため、手術に踏み切ったといいます。

 膵臓は胃の後ろにあって超音波が届きにくく、内視鏡も難しい。早期発見が困難で診断時にがんを手術できるのは20%ほど。進行していることが多いのが難治がんといわれるゆえんです。

 厄介な膵臓がんは最近、罹患数が4万4000人ほど。2000年と比べると、2倍以上に増えています。今回は、この要注意ながんについてチェックしましょう。

 膵臓は、消化液を分泌する腺房と、消化液を集めて膵液として十二指腸に運ぶ膵管からできています。膵臓がんは多くが膵管から発生しますが、今回は腺房と公表されました。この腺房から発生する膵臓がんは、全体の0.4%と非常にまれなタイプなのです。

 この特殊な膵臓がんは診断時の遠隔転移が多く、3~5割に遠隔転移が認められます。その最も多いのが肝臓です。膵管にできる膵臓がんよりやや若く50代で見つかることも珍しくありません。今回はさらに若い32歳での診断といわれますから、おふたりはつらかったと思います。

 ただし、このタイプは積極的な治療で生存期間が延びる可能性があるのも特徴です。おふたりの報告などによると、診断当初は「何もしなければ4カ月。標準治療を進めて抗がん剤で延命していったとして長くて2年」と言われたそうですが、もっと長いケースも珍しくありません。

 遠隔転移などがあっても抗がん剤でがんを縮小して手術ができると、5年生存率は43.9%、生存期間中央値は41カ月とする報告もあります。中央値は100人追跡したとき、51番目の数値。41カ月を超えて延命することは十分で、5年を超える延命も報告されています。

 特殊な膵臓がんだけに治療法が確立されているわけではありませんが、抗がん剤などとの組み合わせで手術できるかどうかがカギです。その中でも肝臓への多発転移をいかに防ぐかが重要な要素といえます。

 前述した通り、膵臓がんは急増しているがんのひとつです。

 がんができる部位は運かもしれませんが、膵臓がんのリスクは、糖尿病、慢性膵炎、過剰飲酒(日本酒で1日3合以上)、喫煙、膵臓がんの家族歴、肥満など。これらのリスクが複数ある人はエコー検査をお勧めします。

 脂肪が厚いとエコーが届きにくいので、より精度の高いMRCP(MR胆管膵管撮影)がベターです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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