高齢者の正しいクスリとの付き合い方

トローチに穴が開いているのには“命に関わる”深い理由がある

トローチの“穴”には深い理由がある
トローチの“穴”には深い理由がある

 老若男女問わず、誰しも一度は「トローチ」を使ったことがあると思います。トローチは風邪などで喉が痛いときに舐(な)めるクスリです。

 舐めて溶かすクスリなので内服薬だと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、トローチはじつは「外用薬」に分類され、その役割は消毒薬に近いといえます。トローチを舐めることで殺菌作用のある成分が唾液に溶け出し、それをのみ込むときに喉に触れることで消毒効果を発揮します。つまり、トローチは体内に吸収されて効果を発揮するクスリではないので、外用薬に分類されるのです。

 中にはトローチを舐めずにポリポリかみ砕いてしまう方もいらっしゃるでしょう。ただ、それをしてしまうとトローチの成分が唾液に溶け出す前にのみ込んでしまうことになります。これでは、本来消毒したい場所である喉をトローチの殺菌成分が“アッという間”に通過してしまい、その効果を発揮できなくなってしまいます。

 私自身、アメを舐めているときにかみ砕いてしまうこともあるのでトローチをかみたくなる気持ちは十分に理解できます。しかし、クスリの効果を発揮させたいのであれば、そこはぐっとこらえて最後までかみ砕かずにゆっくり溶かしていくようにしましょう。

 さて、ここからが本題です。トローチって真ん中に「穴」が開いていますよね。この穴には深い意味があるのです。じつはトローチには穴が開いていない時代がありました。その頃、溶けきる前のトローチを誤ってのみ込んでしまい、悪いことにそれが気管に入り窒息してしまうという事故が多発しました。

 アメでもトローチでも、長い時間舐めている(口の中に含んでいる)と、何かがきっかけとなって自分の意思に反してのみ込んでしまうトラブルが起こる可能性があります。高齢者などで嚥下(えんげ)機能(=のみ込む力)が低下している場合には、そのリスクはさらに高まります。そういったトラブルが起こった場合でも、命の危険性が少なくなるように改良されたのが、今の穴の開いたトローチなのです。

 万が一、誤ってのみ込んでしまっても窒息しないように「空気の通り道」としての役割を持っているのがトローチの穴なのです。普段、なにげなく使っているトローチですが、こういった工夫が施されているということを知るだけでも、次に使うときの印象が変わるかもしれませんね。

 でも、いくらトローチに穴が開いているからといって、気管に入れば苦しいことには変わりありません。あくまで穴によって窒息のリスクが少なくなるというだけですので、トローチを使うときには溶けきる前に誤ってのみ込まないように注意しましょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

関連記事