老親・家族 在宅での看取り方

90代夫婦2人暮らし 認知症を患いつつも楽しく暮らしていたが…

認知症といっても程度はさまざま(写真はイメージ)
認知症といっても程度はさまざま(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 認知症といっても程度はさまざまで、日常生活を普通に送ることが難しくない方は少なくありません。

 当院の患者さんで、90代のご夫婦ともが認知症。お2人暮らしをされていました。

 旦那さんは寡黙だけれど明るい性格。日常的に物事をすぐ忘れてしまいます。しかし力仕事はもちろん、それ以外の家事も指示されれば、いろいろなことができます。

 一方、奥さまもおしゃべり好きで、楽しく明るい方。ところどころ覚えていないことが増えてきましたが、家事をこなす分には問題なし。いつも、午前中のうちに家事をすませます。食品など必要な買い出しがあれば、足が悪いので旦那さんに助けてもらいながら、買い物に出かけます。

 お2人には息子さんと娘さんがいます。息子さんは独身。すでに独立しており、日頃は仕事で忙しいため、実家にはたまにしか立ち寄ることができません。

 娘さんは結婚で実家から電車で1時間半程度かかるところにお住まい。現在はご主人(90代ご夫婦からすると義理の息子)の体調が思わしくなく、家を空けることもままならない状態。それでもなんとかやりくりし、週に3日、様子を見に実家に通われているとのこと。

 みなさん、絶妙なバランスでどうにかここ数年暮らしてきましたが、旦那さんの食事の量が徐々に少なくなり、痩せて動けなくなってきました。認知症の方の自然の経過とも言えますが、ベッドで寝ている時間も長くなってきました。

 今年のお正月のある朝のことです。その日は娘さんは実家に行く予定ではなかったのですが、胸騒ぎがして訪れたといいます。

 お昼過ぎに実家にたどり着くと、玄関で旦那さん(娘さんにとって父親)が冷たくなって震えているではありませんか。新聞を手にしており、おそらく新聞を取りに出たものの、痩せて筋力の落ちた足では玄関を上がれず力尽き、身動きを取れないまま、寒い玄関で朝から6時間程度過ごしていたようなのでした。

 私たちのところに往診の依頼があり、すぐ駆け付けたところ、体温は34度。すでに低体温症となり、意識レベルも落ち、生命の危機といえました。

 もしかしたら回復の見込みがないかもしれない。病院で治療するか、または、この後大きく回復する見込みがなく、歩けなくなる可能性もあるなら家で様子を見るか。いずれにしても食事が積極的に取れるわけではなく、高齢であることも考えれば、危機的な状況といえました。

 そのことを娘さんに説明すると、このまま様子を家で見るのも忍びないため、病院に一度だけ入院させたいとの希望。そこで私は大学病院に連絡を取り、経過を説明し、温かい点滴を含む低体温症の初期治療を依頼しました。そして、症状が安定したら在宅で引き続き治療することも、病院の先生に約束したのでした。

 非常に思い入れのあるご家族でもあり、この続きを次回も取り上げたいと思います。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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