老親・家族 在宅での看取り方

在宅医療では「心」の環境調整が大事…可能であれば離れて暮らす家族も交えて

患者さん、ご家族とがお互い率直に話し合って療養環境をつくる
患者さん、ご家族とがお互い率直に話し合って療養環境をつくる

 ご自宅で在宅医療を始めようとした場合、事前に行うさまざまな必要な準備がありますが、私たちはそれを「環境調整」と呼んでいます。

 患者さんの状態に合わせた介護ベッドや手すりの設置、車椅子など自宅で療養するための器具や道具の準備です。通常ですとだいたい2週間ぐらいかけなければ療養環境を整えることはできないものですが、患者さんに残された時間が少なかったりする場合は、自宅へ帰ることを優先し、急いで環境を整えます。

 これまで療養を開始されるお家では、寝室が2階という場合も少なくなかったり、狭いなどの理由から介護ベッドが入らないということはよくある話で、結局リビングに介護ベッドを入れるということは少なくありませんでした。

 ですが実は、リビングは家族が集う場所のために、自然と患者さんの周りに家族が集まって、患者さんも一緒にテレビを見たり、食事の時間を共にしたり、ワイワイと過ごすこともできますから、最初は抵抗感があったけど、リビングにベッドを入れてもらって結果的によかったとおっしゃるご家族も多いです。

 さてこの「環境調整」には、ベッドやトイレといった介護のための器具などの準備の他にも心の準備もあると考えます。

 在宅での療養にはもちろんマニュアルもなければ、決まったスタイルもありません。患者さんご本人と家族それぞれに療養のやり方があり、それぞれの不安や疑問、将来の目標といったものもさまざまです。あまり形式にこだわることなく、できれば在宅医療を開始される前に患者さんとご家族の間で、事前の話し合いをしていただくことは大切な「環境調整」といえるわけです。

 それは在宅医療を行うために、患者さんご本人とご家族の希望や願いを、最後に私たちも共有することが必要となるからです。

 つい長年一緒に暮らして気心知れたご家族だから、言わなくてもお互いわかると考えがちとなり、いざ在宅医療をスタートさせてから、ご家族と患者さんとの思いのズレにあつれきが生じ、悩まれるといったことは珍しくありません。

 そのためにもどんなささいな心配ごとや不安または希望や将来の目標なども、患者さん、ご家族とがお互い率直に話し合い、心の環境調整を整えるべき。それにより、これまで感じることのなかった家族との絆を再認識することにもなるかもしれません。そして私たちにぶつける新たな疑問も明らかになるはずです。

 その場合、遠方に住んでいる親類の方など、できるだけ関係の方々にはその話し合いの場に加わっていただくことをお勧めします。患者さんやご家族がいくら在宅医療での療養を希望したとしても、その後にある緩和ケアのやり方や看取りの仕方を巡って、親族間でのトラブルが起こる可能性も少なくないからです。

 一般的にいって、日頃から患者さんご本人と離れて暮らしているために、在宅療養がどのようなものなのかイメージできず、在宅療養に不安や不満など懐疑的な方もいらっしゃいます。

 当院では、いつでも、どんな状態でも家に帰れます、と常に言っています。そのためにも患者さんやご家族が、日頃から話し合われ、思いをひとつにすることはなによりも大切な準備なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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