Dr.中川 がんサバイバーの知恵

笑う人と笑わない人は健康力がこれだけ違う 複数の研究も後押し

写真はイメージ(C)iStock
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 関西ならではの研究結果が発表されました。近畿大学と吉本興業のチームは、笑いが健康に与える効果を検証。乳がんや大腸がんなどを経験した40~80代の43人に、漫才や落語のDVDを毎日15分以上、4週間続けて鑑賞してもらい、その間、1週間ごとに生活の質についてアンケートを行ったほか、健康状態を0(悪い)~100(良い)の間で点数化してもらったそうです。

 その結果、スタート時に72点だった平均点は81点に上昇。うつや不安についての指標も改善していて、4週間後の血液検査では、細胞にダメージを与える活性酸素を抑える働きもよくなっていたといいます。

 実は笑いの効用はすでに知られていて、今回の検証結果もその流れを後押しするものです。ほかの研究結果も紹介しましょう。

 ひとつは、大阪国際がんセンターが松竹芸能や吉本興業と行ったもので、落語や漫才を鑑賞したグループと鑑賞しなかったグループにわけて、それぞれ約30人の血液を採取して分析。その結果、鑑賞グループは鑑賞しなかったグループに比べて、NK細胞を活性化するタンパク質を作る能力が平均で1.3倍上昇。NK細胞そのものも増加傾向が示されました。

 NK細胞は、体内で発生するがん細胞や体に侵入した細菌、ウイルスなどを攻撃し、排除する働きがあります。その数値が上昇したことは、すなわち免疫力がアップしたことです。

 調査では、患者の気分などについてもアンケート。緊張や抑うつ、疲労など6項目すべてで改善し、がんの痛みも軽くなったといいます。「自分はきっとできる」という前向きな気持ちをもたらす効果もみられたそうです。

 もうひとつは、京都医療センターの研究で、2型糖尿病やメタボリックシンドロームの患者222人を対象に1年ごとの追跡調査を実施。1年間の食前血糖値とHbA1cの変化を、笑いの頻度別で比較しました。

 その結果、笑いの頻度が「月に1~3回か、ほとんど笑わない」というグループは数値の改善度が低く、「月に1~5回」「ほぼ毎日」というグループで数値の改善度が高いことが判明。また、ポジティブな心理要因を多く持つ人ほど、HbA1cが低下する傾向がみられたそうです。

 笑いは、インスリンの働きをサポートして糖尿病を改善する働きがある「アディポネクチン」の発現を上昇させることも分かったといいます。

 がん患者さんもそうでない方も、つらい毎日を嘆くのではなく、つらさを笑い飛ばすことを心掛けてください。やっぱり、笑う門には福来たる、です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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