第一人者が教える 認知症のすべて

「脳血管障害による認知症」は高血圧と深く関係している

写真はイメージ
写真はイメージ

 日本の高血圧の患者数は、推定約4300万人。約3人に1人が高血圧という計算になります。

 高血圧に深く関連しているのが、よく知られるように食塩摂取量です。日本人の食塩摂取量の平均値は以前と比べると減少しているものの、それでも多め。

 厚労省による「健康な日本人の成人男女が目標とすべき1日の食塩摂取量」は男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満とされていますが、男女ともにこれを数グラム上回っている状況です。

 なお、高血圧や慢性腎臓病など塩分摂取を厳しく制限しなければならない人では、重症化予防のため1日6グラム未満とすることが推奨されています。

 高血圧は、動脈硬化を進行させ、脳卒中、心筋梗塞のリスク因子になります。そして、認知症のリスク因子でもあります。

 認知症には、脳の血管に障害が出ることで発症する「脳血管障害による認知症」と、神経細胞が減少し、脳が萎縮することで発症する「神経変性による認知症」とがあります。前者は、脳卒中などが関係するもの。後者は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など。

 高血圧と特に関係が深いとされているのが、「脳血管障害による認知症」です。生活習慣病の大規模な疫学調査「久山町研究」では、次のような報告をしています。

▽中年期に高血圧前症(収縮期血圧120~139㎜Hgまたは拡張期血圧80~89㎜Hg)の人は、血管性認知症を発症する確率2.4倍(血圧が正常な人と比べて=以下同)

▽老年期に高血圧前症の人は3.2倍

▽中年期にステージ1(収縮期血圧140~159または拡張期血圧90~99)の人は5.9倍

▽老年期にステージ1の人は4.7倍

▽中年期にステージ2(収縮期血圧160以上または拡張期血圧100以上)の人は10.1倍

▽老年期にステージ2の人は7.3倍

和食は塩分が高め
和食は塩分が高め(C)日刊ゲンダイ
「これならできる」減塩法を見つけて実践

 塩をしっかり利かせた味付けは、わかりやすいおいしさだと思います。それに慣れてしまうと、少ない塩分量の食事では物足りなさを感じるでしょう。

 また、外食や出来合いの弁当、総菜はどうしても塩分量が多い。自炊派ではない方が塩分量を減らすのは難しいかもしれません。

 それでも今の塩分量が多い生活を続けていると、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、認知症などのリスクは高いままの可能性が高い。「これならできる」というものを見つけ、少しずつ生活を変えてみませんか?

 旅行ジャーナリストの50代女性は、月の半分は国内外のあちこちに出かけ、取材の日々。その土地土地の食材を堪能すること、魅力的な飲食店を発掘し関係を築くことは大切な仕事ですから、取材先で「減塩中です」とは言ってられません。出されたものは貪欲に食べ、取材の合間を縫っての食のリサーチも積極的に行う。

 その代わり、東京に戻ったら、「ほぼ塩分なし生活」を送るそうです。塩分の入っている調味料(醤油、ソース、味噌、ポン酢、ドレッシング、マヨネーズなど)は使わず、パンやうどん、練り物やハム、ソーセージといった加工食品は原材料に塩分が含まれるので食べない。

 でも、食が貧しくなるわけではない。彼女はオリーブオイルが大好きで、お気に入りの一本を自宅にストックしている。値段は少し高めでも味がいいと思った野菜やパスタにそのオリーブオイルをたっぷりかけ、フレッシュなハーブ類やかんきつ類を搾って食べたりするそうです。限りなく満足がいく食事を取りながら、減塩も両立させている。

 人によって「これならできる」は異なります。激辛好きの人なら、塩の代わりに辛み成分を多くすることで、塩分が少ない物足りなさをカバーできるかもしれない。減塩は「この日だけやればいい」じゃないからこそ、自分ができる方法を見つけ、日々に取り入れていくことが大事だと思っています。

■減塩のコツ
・醤油はかけずに、つける
・醤油やソースをかけるのは、味見してから
・薬味、スパイス、酸味を活用し、減塩の物足りなさを補う
・味の濃いモノを重ね合わさない(例えば、「炊き込みご飯+味噌汁+こってりおかず」は避ける)
・素材の味を意識して楽しむ

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

関連記事