科学が証明!ストレス解消法

「パワハラ」はずっと残り続ける恐怖を相手に植え付ける

写真はイメージ(C)PIXTA
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 パワーハラスメント(以下、パワハラ)とは、他者が身体的、心理的、社会的な影響・ストレスを被ることです。自分はパワハラだと思っていなくても、受け取った側がストレスを感じるようであれば、ささいなことでもパワハラになりかねません。

 パワハラの言動として該当する行為は、侮辱や嘲笑はもちろん、適切でない方法で個人の行動や仕事に対して非難や批判を行うことも含まれます。また、仕事上の機会や情報を提供せずに、社会的な孤立を促す行動、さらには個人に対して過度な仕事量や不適切な条件を課し、仕事において圧力をかけることも相当します。

「その髪形、似合うね」といった、個人の性格や外見などに対してのコメントもパワハラと受け取られるケースがありますが、基本的に攻撃的、差別的ではない限り、パワハラにはなりません。そこまで規制するようになると、表現の自由を奪いかねない。過度に発言を気にすると、円滑なコミュニケーションができなくなる副次的な障害を生み出してしまいます。

 しかし、侮辱や嘲笑、圧力は別です。特に、会社の上司と部下に代表されるような日常的な関係性にある場合、パワハラはトラウマとなり、被害を受けた方は苦しみ続ける……。これを理解しなければいけません。

 1920年代に行われた、心理学者のワトソンとレイナーによる「アルバート坊やの実験」という有名な心理学の実験があります。アルバートとは、被験者である乳児の名前です。

 大前提として乳児は、大きい音に対して恐怖心を抱きます。大人でも、突然大きな音を鳴らされるとびっくりするわけですから、乳児や子供の恐怖は想像に難くありません。

 大きな音を出すと乳児(アルバート坊や)は恐怖心を抱く。この反応を利用し、ワトソンたちは、「白ネズミを見せてから、ハンマーで叩いた大きな音を鳴らす」というアクションを繰り返しました。その結果、アルバート坊やは白ネズミを見るだけで怖がり、泣き出してしまうようになってしまいました。白ネズミ=大きな音が鳴ると思い込み、アルバート坊やは白ネズミを反射的に怖がるようになってしまったのです。

 乳児の人権を無視しているため、この実験は大きな非難を受けました。一方で、「条件付け」を用いれば、人間に恐怖反応を起こせることを実証したのです。

 先のパワハラの例を思い出してください。パワハラをやめても、パワハラを行っていたAさんを見るだけで、被害者は精神的なダメージを被り続けてしまうのです。発達の形成において、環境は極めて重要な要因となります。

 パワハラが発覚したとき、問題のある言動をストップするだけでは根本的な解決にはならない。恐怖を取り除くためには、圧力を加えていた人を被害者から見えない部署に配置換えするなど、環境を変える必要があります。

 自分の行動が、誰かの行動に影響を与える「条件付け」になるかもしれない。どうせ与えるなら、良い影響を与える行動を心がけましょう。


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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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