Dr.中川 がんサバイバーの知恵

がん治療後の復職率は時短勤務の有無でダブルスコアの開きがある

退院後、職場復帰するまでのサポートが大切(C)PIXTA
退院後、職場復帰するまでのサポートが大切(C)PIXTA

 入院して治療を受けることがありますが、最近はどんな病気であれ、治療が成功して容体が安定していれば、なるべく早期に退院するのが一般的です。がんも例外ではありません。

 そんな中、興味深い研究結果を発表したのが、京大大学院医学研究科のグループです。2019年6月から20年8月までの間に大学病院と6つの関連病院に大腸がんのステージ1~3で手術を予定していた人のうち、就労中だった129人を追跡。その結果、手術から復帰までの中央値は1.1カ月、術後半年では81.3%、1年後では79.2%が仕事を続けていることが明らかになったのです。

 いまや3世帯に2世帯は共働きで、毎年100万人ががんと診断されるうち3割が現役世代。いかに早く入院から職場復帰するかは、重要なテーマです。

 今回の追跡では、進行したステージ3が含まれるため、全体の成績は1.1カ月を要していますが、固形がんで早期発見ならもっと入院期間を短縮できます。

 私の場合、2018年12月28日に膀胱がんを内視鏡で切除し、31日に退院。1月4日に職場復帰しました。このスピード復帰は、私が医師だからではありません。

 手術でも、開腹手術は肉体的侵襲が大きく入院期間も長くなりますが、内視鏡手術やロボット手術は短縮できます。大腸がんの場合、早期で内視鏡やロボットでの手術が可能なら3日ほどでの退院も可能です。京大グループの追跡でも、98%が腹腔鏡やロボットでの手術でした。

 今回、退院から一歩踏み込んで職場復帰をゴールとしていますが、それについては会社のサポートも欠かせません。時短勤務制度の有無によって復職率に大きな差が出ることが前向き調査で報告されているのです。

 たとえば、胃がんの場合、時短勤務がなくフルタイムの働き方を余儀なくされると、3カ月後の復職率は4割でしたが、時短などのサポートがあれば8割にアップするのです。その調査では、時短勤務があれば、3人に2人の現役がんサバイバーが復職できるとしています。

 その点で、入院の必要のない放射線治療はメリットが大きい。通院で済み、最新の放射線なら1回の照射時間は数分で、前立腺がんは5回、肺がんは4回です。着替えなどの準備も含めて10分ほど。来院から会計まで2時間ほどです。

 都市部には、仕事帰りに照射できる施設もあって、治療後に一杯飲んで帰る人もいますから、仕事への支障は入院に比べてとても小さいでしょう。

 早期退院には、早期発見が不可欠です。今回の研究結果は、改めて毎年のがん検診をきちんと受けることの大切さを示していると思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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