Dr.中川 がんサバイバーの知恵

新田恵利さんが夫の悪性リンパ腫を告白 SNSでのがん告知も励みになる

新田恵利さん
新田恵利さん(C)日刊ゲンダイ

 タレントの新田恵利さん(55歳)が、女性誌「美ST」で悪性リンパ腫を患うご主人との闘病ぶりについて語った記事が話題です。「自分が脳動脈瘤と言われた時はわりとすんなり受け入れられたのですが、いざ病気になるのが夫だと、すぐに受け入れることができませんでした」と診断時の心境を告白しています。

 男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになる時代。自分やパートナーががんになることは珍しくありません。患者や家族の心構えについて紹介します。

 印象に残っている患者さんで、すい臓がんの男性がいました。別の病院で手術されましたが、残念ながら再発。それが進行して放射線治療を希望され、外来を受診されたのです。

 日本では、病状を説明するとき、ご本人より先にご家族に説明するのが一般的です。しかし、その男性はいつも本人のみで、「奥さまも同席された方が」とお話しすると、穏やかにこう言われました。

「腫瘍マーカーの上昇が緩やかになるだけで、女房が喜ぶんです。『来年まで持たないかも』なんて言うと、『そんなこと言わないで』って泣くんです。女房をがっかりさせたくはありません」

 その方は、自分の死を恐れることはなかったですが、家族や友人を悲しませるのが嫌で、いつも一人で優しく対応されていたのです。

 記事によれば、ご主人の容体が安定していると、夫の運転で2人で新田さんの仕事現場に向かうこともあるといいます。今は新田さんもご主人の病気を受け入れ、2人で病気に立ち向かっていることが見て取れます。闘病の姿はケース・バイ・ケースですが、患者も家族も、お互いの気配りが欠かせないと思います。

 新田さんの記事で興味深いのは、ご主人のSNSの使い方です。SNSに病気を公表すると、同級生に同じ病気の経験者が3人いて、闘病の励みになったといいます。

 たとえば、胃がんや大腸がんの早期で内視鏡で切除でき、入院が数日で済むようなケースは、家族のみに知らせて、会社や周りには内緒でもよいかもしれません。しかし、そうでなければ家族にも周りにも伝えるのが楽ですし、実際、励みになります。

 内閣府の調査で、がんの治療と仕事の両立が「難しい」との回答は57%。一番の理由は「体力的に困難」(24%)ですが、以下は「代わりがいない、頼みにくい」(21%)、「治療で休むことを許してくれるか分からない」(19%)など職場の調整の難しさが並びます。

 治療と仕事の両立には、治療選択も重要ですが、何よりも職場にがんであることを伝えないことにはサポートを受けられません。その点でSNSでの告知は、仕事の調整に必要なこととリンクすると思いますから、悪いことではないでしょう。私も膀胱がんが見つかったとき早期でしたが、進行がんの可能性にも備えて家族や職場、友人に伝えました。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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