前回、「アナフィラキシーショック」の原因としてハチ毒と食べ物を挙げましたが、じつは他にもあります。それはクスリ(特に注射薬)です。
クスリによるアナフィラキシーショックの症状は、ハチ毒や食べ物の場合と同様です。そして、クスリによるアナフィラキシーショックは、投与直後に急激に起こるケースがほとんどです。ほぼすべてのクスリがアナフィラキシーショックの原因になり、添付文書の禁忌項目(使ってはいけない人)には「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」との記載があります。
そんなこと言われたら、自分は大丈夫なのか? と不安になる方もいらっしゃるでしょう。ただ、多くのクスリはアナフィラキシーショックを起こすことはまずありません。私自身もほとんど経験がないので、そこは安心していただいて結構だと思います。
ただ、中には他のクスリに比べて少し起こしやすいものもあります。それは注射薬で、特に抗菌薬と血管造影剤が該当します。これらのクスリによってじんましんのような副作用が出たことがある場合には、次に使うときにアナフィラキシーショックの危険性があるため、原則使わないようにします。
若い時には造影剤を使った検査をする機会はあまりありませんが、高齢になると使ったことがあるという方もいらっしゃるでしょう。また、それによってじんましんなどのアレルギー症状が出て、お薬手帳などに「〇〇系造影剤禁」と記載されている方もいらっしゃると思います。
こういったクスリによるアナフィラキシーショックの怖いところは、1回目はもちろん、2回目、3回目も問題がなかったのに、4回目で起こる場合があるといった感じで、いつどんなタイミングで起こるのか予測がつかない点です。私は以前、同じ抗菌薬の10回目の投与時にアナフィラキシーショックを起こした例を経験しています。
そのため、多くの医療機関では抗菌薬を点滴で投与するときに看護師が最初の10~15分間は異変がないかどうか付きっきりで観察しています。クスリによるアナフィラキシーショックは10分以内に起こることがほとんどだからです。造影剤は検査中に投与するものなので、必然的に医療スタッフが付きっきりになります。
クスリによるアナフィラキシーショックの場合、前回紹介したエピネフリンの自己注射キットは使いません。なぜなら、万が一、アナフィラキシーショックが起こったとしても、すぐに医療者が対処できるからです。ただ、どういったクスリが原因になるかわかりませんし、どういったタイミングで起こるかもわかりません。もし入院中で注射薬を投与した際に少しでも体の異変を感じた場合には、遠慮なくすぐに医療スタッフまでお申し出ください。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方