【睡眠時無呼吸症候群】最新治療ならCPAPが合わない人も続けられる

舌下神経電気刺激法(HNS)の小型デバイスシステム
舌下神経電気刺激法(HNS)の小型デバイスシステム(提供写真)

「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の治療には、マスクを装着して就寝する「CPAP(シーパップ)」という持続陽圧呼吸療法が行われる。しかし、マスクの不快感などから治療を断念するケースも少なくない。そんな人にとって解決策のひとつになる新しい治療法がある。奈良県立医科大学付属病院呼吸器・アレルギー内科の山内基雄氏に聞いた。

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 SASは、睡眠中に何度も繰り返し呼吸が止まる病気で、無呼吸低呼吸指数=AHI(睡眠1時間あたりの10秒以上の無呼吸や低呼吸の回数)が5以上の場合に診断される。

「閉塞性(OSA)」と「中枢性」の2種類があり、ほとんどは肥満などで舌の付け根が上気道を塞いでしまい無呼吸になるOSAだという。

「熟睡できず日中に強い眠気が生じて大事故の原因になるうえ、睡眠中に低酸素状態が続いて交感神経の働きが活発になることで、高血圧をはじめ心筋梗塞や脳卒中といったさまざまな病気のリスクが高くなります。AHI20以上と診断されたら治療を開始するのがベターです」

 前述したように治療の基本はCPAPになる。鼻を覆ったマスクからチューブを通して適切な圧を加えた空気を送り込み、気道を広げて呼吸を改善する。しかし、マスクの不快感や息苦しさ、効果が実感できないといった理由から、治療を続けられない人がいるという課題があった。

 そんなCPAPが使用できないOSA患者への代替療法が「舌下神経電気刺激療法(HNS)」だ。

 幅約50ミリ、厚さ約7ミリの小型デバイスシステム(写真)を体内に植え込む方法で、2021年6月から保険適用になった。

「鎖骨の下を切開してデバイス本体を植え込み、その真下にある肋間筋に呼吸を検知するセンサーを留置します。さらに顎下から刺激リードを挿入しデバイス本体とつなぎます。肋間筋の動きから吸気を感知すると、舌下神経に刺激が伝わり舌根を持ち上げて上気道を確保する仕組みです」

 手術後は、植え込んだデバイスが動かないよう激しい運動は控え、1カ月後の外来で傷口に感染が起きてないか、舌にしびれや違和感がないかチェックしたのち、リモコンで初めてスイッチを入れデバイスを作動させる。その後は毎日スイッチをオンにしてから就寝すれば自動的に無呼吸を改善する。万が一、スイッチを入れずに寝てしまったら家族が代わりに操作しても構わない。

■11~13年を目安に交換

「当院で手術を受けた70歳の男性は、CPAPを10年以上使用していましたが、『装着が煩わしくて使いたくない』と手術を決意しました。また、当直がある仕事をしていて装置本体の持ち運びに不便さを感じていたといいます。手術前は30以上だったAHIは手術後に3.6まで改善し、本人も心理的負担から解放されて満足していました」

 手術でデバイスを植え込むため、創部感染、舌下神経麻痺のほか、舌を出した際に前方に出ず左右にぶれるといった有害事象も報告されているが、どれも1~2カ月で治まる一過性の症状で、発生率も1%と極めて低い。

 また、原則月1度の受診が求められるCPAPとは異なりHNSは受診頻度の規定がない。

「鎖骨下に挿入したデバイス本体は、11~13年に1度を目安に取り換えます。異変がなければそれまで頻回の受診は必要はありませんが、体重が増減したり、いびきが再発した場合には刺激強度を変更するので、医師に相談してください」

 現在、HNSの適応基準はAHIが20以上でCPAPが処方されているが、何らかの原因で継続が難しいことが前提だ。ほかに、18歳以上、BMIが30未満、へんとう肥大などの解剖医学的異常がみられない、中枢性無呼吸の割合が25%以下、薬物睡眠下内視鏡検査で軟口蓋が同心性虚脱を認めないことが条件になる。

 ただし、日本ではHNSを実施できる医療施設が限られている。手術を希望する際はHNSを提供するInspire社のHPで確認するといい。

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