Dr.中川 がんサバイバーの知恵

がん治療と仕事の両立…厚労省プロジェクトへの参加で社長の意識改革を

多くの人が治療と仕事の両立に不安を抱えている
多くの人が治療と仕事の両立に不安を抱えている(C)日刊ゲンダイ

 高齢化が進むいま、がんは避けて通れない病気です。男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになります。そこに定年延長も重なり、現役世代ががんになるケースは少なくありませんが、内閣府の調査は心もとない現実を浮き彫りにしました。

 内閣府は今年7~8月にかけて18歳以上の3000人を対象にがん対策に関する世論調査を実施。その調査結果が今月20日、公表されました。その中で「治療や検査のため2週間に1回程度通院する場合、働き続けられる環境か」について質問したところ、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」が54%だったのです。多くの人が、がん治療と仕事の両立に不安を抱えています。

 その理由は「体力的に困難」が28%で、「代わりに仕事をする人がいない、いても頼みにくい」「職場が休むことを許してくれるか分からない」がそれぞれ22%、16%でした。

「高齢者白書」(内閣府.2022年)で就業意欲についての回答は、「働けるうちはいつまでも」「70歳くらいまで」またはそれ以上を合わせると約9割です。毎年100万人ががんを発症するうち、65歳以下は3割ほどですが、今後働く人ががんになる可能性はより高まっているのです。

 そんな中、職域に特化したがん対策についてフォローしているのが、厚労省の国家プロジェクトである「がん対策推進企業アクション」です。私もそのアドバイザリーボードのメンバーのひとりで手前みそですが、がん治療と仕事の両立に会社が協力的でないと思う人は、社長に企業アクションへの参加を要望するとよいと思います。

 国家プロジェクトですから、費用はかかりません。すべてのプログラムが無料で利用できます。たとえば、小冊子「働く人ががんを知る本」が社員の人数分、会社に届き、全社員ががんについての知識を深めることができます。毎月2回程度送られるメールマガジンでは、セミナーの案内やがん対策の最新情報を網羅。ほかにもさまざまな啓発ツールを無料で提供してもらうことができます。

 さらに参加登録後に申し込むことで、ネットでeラーニングを受講できるほか、医師やがんサバイバーの出張講座も可能です。参加するメリットは、決して少なくないでしょう。

 経営者ががんについての関心が低いと、がん治療と仕事の両立支援についてのサポートが弱いことが分かっています。当然といえば当然ですが、そんな社長の意識は下から変えていくことも大切でしょう。

 ヘルスリテラシーが高い企業は、人材難のいま、採用活動にプラスに作用します。

 企業アクションに参加する企業は5000社に上り、中小企業も多数。がん治療と仕事の両立に不安を抱えた人は、解決のヒントになると思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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