高齢者の正しいクスリとの付き合い方

「吐き気止め」のクスリはどのように作用して症状を改善するのか

写真はイメージ
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 ほぼすべての方が、これまでに一度は「吐き気」を催したことがあるはずです。では、吐き気とはどういったときに起こるのでしょうか。吐き気があるときにはそんなことを考える余裕はないと思いますので、それがない今、改めて一緒に考えてみましょう。

 一部例外はありますが、吐き気が起こるときは基本的に胃の中がパンパンになっています。胃がパンパンになると、その中身が口に向かって逆流しようとするため吐き気が起こり、最悪、嘔吐に至ります。では、なぜ胃の中がパンパンになってしまうかというと、胃や腸の動き(蠕動運動といいます)が悪いことが主な原因のひとつです。

 口から摂取した食べ物は胃にためられ、その後胃の蠕動運動によって少しずつ腸に送り出され、腸で栄養素を吸収しながら蠕動運動によりさらに肛門側に送られていきます。胃や腸の動きが悪くなると食べ物や消化液がうまく送り出されなくなってしまい、胃がパンパンになって吐き気が起こります。実際に吐き気がある人のお腹の音を聴診器で聞くと、グル音(胃や腸が動いてぐにゅぐにゅと音がすること)が弱くなっています。

 よく用いられる吐き気止めのクスリは、胃や腸の動きを良くすることで食べ物や消化液をスムーズに移動させ、胃がパンパンになるのを防ぎ、吐き気を改善します。吐き気のせいでクスリが飲めない場合でも安心してください。吐き気止めのクスリには、錠剤や散剤だけでなく注射剤や座薬といったものもあり、万が一、クスリが飲めなくても十分対処は可能です。

 吐き気止めのクスリは胃や腸の動きを良くするので、お腹がぐにゅぐにゅ鳴ることもありますが、これはクスリの効果が発揮されていると考えてもらって結構です。こういったクスリは使用後比較的速やかに効果を発揮するので1日3回といったように定期的に服用(使用)するだけでなく、吐き気があるときだけ使うといった頓服で用いられることも多いです。

 吐き気止めのクスリにも副作用があります。その中でも注意が必要なのが「錐体外路症状」です。錐体外路は大脳にあり、筋肉の緊張をコントロールしています。そこに障害が起こると、錐体外路症状が起こります。主な症状として、筋硬直や振戦、後屈頚などが挙げられます。吐き気止めのクスリで起こる確率は0.1%未満とかなり低いですが、一度起こるとなかなか改善しない副作用なので注意は必要です。

 吐き気はつらいので、クスリの力で速やかに改善するのが望ましいといえます。ただ、副作用のリスクはあるので、長期間服用(使用)し続けるのは避けたほうがいいでしょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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