がんと向き合い生きていく

「キノコががんに効く」は過去の歴史…かつて研究した友人の結論

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 高校で同窓だったB君が、小さな日本料理屋に連れて行ってくれた時のことです。小皿に3個、料理されたキノコがのっていました。私は「友人の田舎の庭にたくさん生えていたのと同じだ。これはきっとニワシメジだね」と言うと、お店の女将さんが、「昨日、来てくれたお客さんがおいしいと言ってくれました。なかなか手に入らないのよ」とニコニコ話してくれました。

 友人の田舎の庭は、ぐるりと山に囲まれた丘にあり、秋には雑草に隠れてニワシメジが毎年生えていたのです。その庭で見つけたニワシメジをお味噌汁で何回かいただきました。これまで食べたキノコの中で一番、おいしいと思いました。帰りに寄ってみたその街のスーパーでも、道の駅でも売っていませんでした。

 秋になると、また訪ねたいと思っていました。しかし、3年ほどコロナ流行もあって、なかなか訪ねることができませんでした。今年になって、やっと行くことができたのですが、その日は陽が落ちて暗くなってから着きました。夕食にはそのキノコは出てきませんでした。

 翌朝、「庭のキノコは?」と聞くと、「今年は夏に雑草がぼうぼうと生えてしまって、私と妻が旅行中に庭をきれいにして欲しいと、庭師さんにお願いしたのが失敗でした」と言うのです。

「帰ってみると、庭はさっぱりときれいになっていました。草刈りの機械を使ったと思うのだけれど、すっかり更地になってしまって、なかなか雑草もキノコも出てこないのです」

 友人の奥さんは「草取り」が好きなのに、それもできなくなったのだそうです。

 数年前は、庭一面にコスモスが咲き誇って揺れていました。今年も私より背丈が高いのがたくさん咲いているだろうと期待したのですが、玄関先にピンク色の小さい花が2、3本あるだけで、むしろ寂しく感じました。

 たしか、奥には太いウドの木もあったと思ったのですが、それもなくなっています。草がない、キノコは生えない、ただ黒茶色の土が見えているだけでした。

「私たちが居ない時にお願いしてしまって、庭師さんが良かれと思ってやってくれたのです。きれいさっぱりとなくなって……。私のお願いの仕方が悪かったのです。妻も嘆いています。仕方がないです。ニワシメジは来年に期待しましょう」

■来年再び生えてくることを期待

 それから熱燗を飲みながら、キノコががんに効くのかどうか、友人の独演会が始まりました。友人は若い頃、ある研究所に勤めていた際にキノコとがんの関連を調べたことがあったようです。

「キノコをたくさん食べる家はがんが少ない」と言われたことがあって、キノコは免疫力を活性化させるのではないか、キノコに含まれる多糖類のβ-グルカンは免疫力を上げ得るらしいこと、サルノコシカケを煎じて飲んだことなど、話は長く続きました。

 カワラタケから抗悪性腫瘍薬のクレスチンがつくられ、胃がんや大腸がんの化学療法との併用で効能が認められていたが、2017年に製造販売中止となったこと。シイタケからつくられたレンチナンは抗がん剤との併用で使われたが、18年に販売終了となったことなどにも話は及びます。クレスチンとレンチナンは、過去にがんに効くと国が認めた薬でした。

 友人の結論は、「昔はキノコはがんに効くような文献を見たが、いまや過去の歴史だね。キノコは、がんとのことは考えないで、おいしく、楽しく食べられるのがいい。天の恵みだ」でした。

「来年はまたこの庭にきっと生えてくる。それを期待して……」

 これで、その話題は終わりました。

 後日、これを知った庭師さんが、おわびにたくさんのキノコを持参してくれたそうです。ニワシメジではなかったそうです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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