体内におけるクスリの動き「ADME」の最後の段階は「排泄」です。クスリはいつまでも体の中にとどまることはなく、最終的には排泄を経て体の外に出ていきます。主な排泄の経路は尿中と糞便中になります。
糞便中に排泄されるクスリには、そもそもほとんど吸収されないためにそのまま排泄されるものもありますが、大部分は肝臓で代謝を受けた後で胆汁を介して腸内に排泄されるものになります。そのため、肝臓での代謝を受けていれば、クスリの排泄にはそれほど大きな影響を及ぼしません。
一方、尿中に排泄されるクスリの多くは、肝臓で代謝を受けることで水溶性(水に溶ける力)が高まり、腎臓を介して尿中に溶けた状態で体外に排泄されます。また、肝臓ではほとんど代謝を受けずに、そのままの形で尿中に排泄されるものもあります。糞便中に排泄されるクスリとは違い、腎臓の機能が低下するとこうした尿中に排泄されるクスリの量も低下し、結果として体の中のクスリの量が増えるだけでなく、副作用のリスクも高まってしまいます。
腎臓の機能低下は疾患によっても起こりますが、加齢に伴う生理機能の低下によっても起こります。というのも、腎臓の機能を左右する要因のひとつである腎血流量が、加齢に伴い低下する傾向にあるからです。腎臓の中には糸球体という濾過(ろか)装置のようなものがあるのですが、この糸球体での濾過は血液の圧力=血流量に依存していることから、加齢に伴い腎臓の機能はどうしても低下していくのです。
肝臓での代謝と異なり、腎臓から排泄されるクスリについては腎臓の機能ごとに適切な投与量についての明確な指標があります。ですので、普段、われわれ薬剤師が処方箋を取り扱う際には腎臓の機能にも細心の注意を払っており、この指標から逸脱した投与量になっていた場合には、必ず処方した医師に疑義照会(処方内容で疑わしいところを確認すること)しています。
腎臓を介して尿中に排泄されるため投与量に注意が必要なクスリはたくさんあり、代表的なものとして抗菌薬が挙げられます。ほかに一部の鎮痛薬や抗凝固薬なども該当しますし、意外なところだとH2ブロッカーという胃薬も注意が必要です。
普段、それほど気にせずに使用しているクスリですが、体の中では「吸収↓分布↓代謝↓排泄」という流れで動いているのです。静脈内に直接投与する注射薬では吸収の過程は存在しませんが、それ以外のクスリは、ほぼこれに該当します。こういったところをちょっとでも意識できれば、もしかしたらより安全なクスリとの付き合い方につながるかもしれません。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方