Dr.中川 がんサバイバーの知恵

食道がん公表のチバユウスケさん他界…飲酒後は唾液中の発がん物質濃度が10倍に

飲酒後に酔ってそのまま寝てしまうのはNG
飲酒後に酔ってそのまま寝てしまうのはNG

 人気ミュージシャンの訃報が相次ぐ中、今度は人気バンドのメンバーが亡くなりました。「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」の元メンバーで、最近は「The Birthday」で活躍していたチバユウスケさんです。公式サイトなどによると、先月26日に息を引き取ったそうです。享年55。

 公式HPなどには死因が記されていませんが、今年4月に食道がんを公表。休養して治療に励んでいたことから、このがんが原因でしょう。

 食道がんは、アルコールとたばこがよくありません。その後の報道でチバさんは酒豪で愛煙家だったといいます。私は愛煙家でないものの、お酒は大好きで、人ごとではありません。

 ここからは一般論として飲酒と喫煙の影響についてお話しします。胃腸や肝臓、心臓、肺など腹部にある臓器は、漿膜(しょうまく)と呼ばれるラップのような薄い膜で覆われていますが、食道にはこれがなく、アルコールそのものが直接、食道の粘膜を傷害しやすくなるのです。

 口の中には、たくさんの細菌がいて、一部の細菌はアルコールを材料として発がん物質のアセトアルデヒドを産生。その結果、飲酒後の唾液中アセトアルデヒド濃度は、血液中の10倍ほどの高濃度になるのです。

 日本人は人種的にアルコールを分解する酵素(ALDH2など)の働きが弱い人もいます。飲酒で赤ら顔になるのがこのタイプ。そういう人は、唾液中アセトアルデヒド濃度が、さらに2~3倍高いという報告もあり、食道のほか咽頭や喉頭のがんにもなりやすいことも分かっています。

 前述した膜がないことによるアルコール自体の影響と相まって、食道は飲酒によってがんができやすい。たばこにも発がん物質が含まれるので、それぞれ単独はもちろん、重ねるのは余計に高リスクです。

 飲酒後に酔ってそのまま寝てしまうことは、お酒好きならだれしもあるでしょうが、これを続けるのは食道がんとの関係でよくありません。飲酒後のうがいや歯磨きは大切です。

 アルコールの種類は、度数が高いほど高リスクで、ビールやサワー、ハイボールなどよりも、ウイスキーやウオッカなどのハードリカーをストレートやロックで飲む方が食道がんの頻度が高くなります。

 食道には漿膜がないため、早い時期から周りのリンパ節をはじめ臓器に転移しやすいのも厄介ですが、禁酒するとその恩恵も受けやすい。

 京都大学の研究グループは、早期食道がん患者330人の治療経過を追跡。禁酒の影響についても分析した結果、禁酒したグループは、していないグループに比べて1年以上経過した再発が半減。特に多発した患者では4分の1に減少したのです。禁煙の短期的な効果は認められませんでしたが、禁酒効果は比較的、早期に得られます。お酒やたばこをたしなむ人は1年に1回の胃カメラ検査が必須でどちらもほどほどを心掛けることが大切でしょう。チバさんのご冥福をお祈りします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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