65歳未満で発症する若年性アルツハイマー病。映画やドラマの影響からか、発症すると症状が急激に進行し、仕事もできなくなる……。そんな印象を抱いている方は多いかもしれません。65歳以上で発症するアルツハイマー病と同様、いえ、それ以上に、「発症したら人生おしまいだ」と考えている方もいるでしょう。
しかし、それは大いなる間違いです。老年性のアルツハイマー病と比較して、若年性アルツハイマー病は、確かに症状の進行は速い。しかしアルツハイマー病の前段階には、軽度認知障害(MCI)があります。早く対策を講じることで、MCIの状態を保てる方、中には正常に戻る方もいます。アルツハイマー病の発症に至っても、症状の進行を遅らせることは可能です。
一般的にいわれている経過期間は、若年性認知症ではMCIが約5年、アルツハイマー病の初期(軽度障害)が約5年、中等度障害が5~8年、高度障害が5~8年。
通勤や業務に支障をきたし、仕事の継続がだんだん難しくなってくるのは、中等度障害も半ばに入ってきたあたりになります。MCIや初期では、普通の自立した生活が送れます。
若年性アルツハイマー病は50代前半で発症する方が大半ですから、あの手この手の対策を講じることで、定年退職まで仕事を継続できるケースは少なくない。対策を始めるのは早ければ早い方がよく、そのためにも早期発見が重要です。
令和3年度厚生労働省老人保健健康増進等事業において、私が座長を務めた「若年性認知症疾者の就労支援のための調査研究事業」検討委員会で、「若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き」を作成しました。ここで、アルツハイマー病を患いながら仕事を両立した事例として50代男性の話を紹介しています。
大手家電メーカーに、各種家電の組立工として勤務していた男性で、同僚の名前や基本的な現場のルールを忘れたり、提出する書類を間違えたりといったトラブルが生じ始めたのが数年前。次第に物忘れの頻度や程度が増していったことから、上司や同僚の勧めもあって、産業医に相談。病院で精密検査を受けたものの、脳の萎縮が認められず、その時点ではアルツハイマー病との診断はされませんでした。
しかし物忘れによるトラブルは続き、最初の病院を入れると3軒目に受診した病院で、アルツハイマー病、認知症レベルはレベル1(軽度認知症)と診断。抗認知症薬の治療が始まりました。
一方で、男性、妻、産業医、上司、人事担当者、主治医で、男性のこれまでの経験が生かせる形で仕事の継続ができるよう、今後の対応を相談。通勤や業務遂行に影響を及ぼし得る症状や薬の副作用、業務の内容で職場で配慮した方がいいこと、今後の治療予定などの情報のやりとりをし、勤務先側が両立支援プランを作成しました。従来の人間関係の範囲でできる仕事の検討、定期的な面談による必要なプランの見直し、仕事の継続が困難となった場合の対応についても、話し合いをしていくこととなったのです。
若年性アルツハイマー病が疑われる際、前回のこの欄でも触れましたが、他の病気と判断が難しいケースも多々あります。特に、うつ病との区別がつきにくいともいわれています。
若年性アルツハイマー病とうつ病の違いとしては、まず物忘れに対する認識や深刻さが挙げられます。
認知症では「記憶障害を否認する傾向がある」「思い出せなくてわからないことも、つじつまを合わせようと取り繕う」、うつ病では「自ら認知症になったのではと心配し、物忘れを強く訴える」「質問には“わからない”と答える」なども挙げられます。
認知症では、最初のうちは身体的な症状はあまり見られません。しかしうつ病では、不眠、めまい、頭痛、食欲低下などの身体的症状が見られます。