本格的な冬が到来し、全国的に冷え込みも厳しくなってきました。
基本的に「寒さ」は心臓にとって大敵です。気温が低い環境では、人間は血管を縮めて血流を減らし、熱を体外へ逃がさないようにします。血管が縮んで血液が流れにくくなると、心臓は血液を送り出すために大きな力が必要になります。つまり、血圧が上昇し、心臓にかかる負荷も大きくなるのです。
とりわけ、暖かい屋内から寒い屋外に移動したときは血圧の急激な上下動が起こり、心筋梗塞、大動脈解離、不整脈、脳卒中といった心臓血管疾患を引き起こす危険があります。これが、いわゆる「ヒートショック」です。心臓にトラブルを抱えている人、高血圧の人、加齢で心機能が低下している高齢者はとくに注意が必要です。
実際、厚労省が発表する月別死亡率を見ると、ほぼ一貫して12月~2月の冬季が最も高くなっていて、増加の要因の多くは心臓や脳の血管疾患と呼吸器疾患が占めています。また、心筋梗塞の発症数も夏に比べて冬は53%増加するという報告もあります。寒い=気温が低いというだけで、心臓にとっては大きな負担になるのです。
ただでさえ心臓トラブルのリスクがアップする寒い季節に、より気をつけなければならないのが早朝のウオーキングです。先ほどお話ししたように、朝、起床して、あまり時間をおかずに暖かい室内から寒い屋外に出ることで血圧は急上昇します。
そのうえ、朝は、休息やリラックスしているときに優位になる副交感神経から、活動時や緊張状態で優位になる交感神経へスイッチが切り替わるタイミングなので、この時間帯にウオーキングして体を動かすと急に交感神経が活性化することになります。すると、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンが過剰に放出され、血管が収縮して血圧がさらに上昇したり、心拍数が増加します。その分、心臓の負担は増大し、心筋梗塞などの心臓血管疾患を起こして突然死を招くリスクが高まるのです。心臓発作は、早朝や起床直後に起こりやすいというデータもあります。
■脱水も起こしやすい
さらに、冬の朝は脱水を起こしやすい環境です。湿度が低く乾燥しているうえ、睡眠中はおよそ500ミリリットルの汗をかいているため、寝起きは体内の水分量が減っています。
これまで何度もお話ししていますが、脱水は心臓にとって大きなリスク因子です。脱水状態になると、血液の量が減って、粘度も上がります。1回に送り出す量が減り、流れにくい血液を体全体に送らなければならない心臓は、心拍数を増やして対応しようとするため負担が増大します。血液がドロドロの状態で固まりやすくなっているため、血栓による心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクもアップします。とりわけ、心臓にトラブルを抱えていたり、心機能が落ちている人は、脱水から心不全を起こすケースがあります。その場合、腎不全を招いて多臓器不全に陥り、最悪、命を落とす危険もあります。
冬の朝、脱水状態のままウオーキングで体を動かすと、心臓トラブルのリスクはさらに跳ね上がるのです。
もっとも、不安になりすぎて家にとじこもり体を動かさなくなってしまうと、心臓にとってはマイナスです。体を動かすと、心臓はより多くの血液を体中に送り出そうとして、普段より活発に働きます。心臓も筋肉でできていますから、適度な負荷がかかることによってある程度は鍛えられます。逆に運動せずに心臓をサボらせている人は、加齢などで筋力が衰えてくると心筋も薄っぺらくなり、ポンプ機能やペースメーカー機能が衰えてしまいます。心臓の健康には「適度な運動」が欠かせないのです。
ちなみに、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では、ウオーキングなどの有酸素運動を、「ややきつい」くらいの強度で、毎日30分あるいは週150分を目標に週3回は実施することが推奨されています。
ウオーキングを日課にしている人は、冬は早朝を避けて気温が上昇する日中に時間をずらして行うといいでしょう。心臓にトラブルを抱えている人、心機能が落ちている人、薬を飲んで血圧をコントロールしている人はなおさらです。
ただ、どうしても朝しかウオーキングの時間がとれないという人は、しっかり対策してください。まず、気温が低くて寒さが厳しい日や悪天候の日はお休みすることをおすすめします。
また、朝起きたらすぐにコップ2~3杯程度の水を飲み、ウオーキング中にも水分補給できるように準備しておきましょう。屋外に出る前に、まずは家の中で体を軽く動かしてウオーミングアップすることも大切です。
さらに、毎日、起床時と就寝前に自分で血圧や脈拍を測定して状態を確認しておき、朝、目覚めた後の数値が平常とは違っていた場合はウオーキングを控えましょう。体調が優れない日は避け、ウオーキング中に不調を感じたらすぐに中止してください。
冬の寒い朝は、ただでさえ心臓にとって危険だということを常に意識しておきましょう。
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