第一人者が教える 認知症のすべて

若年性も老年性も「私は絶対にならない」とは言い切れない

認知症は身近な病気
認知症は身近な病気(C)日刊ゲンダイ

 厚労省の推計では、認知症患者は2025年には700万人を超えるとされています。これは、65歳以上の高齢者の5人に1人が該当するということ。「自分が発症する」「患者を身内に抱える」のどちらにおいても、身近な病気と言えるでしょう。

 一方、若年性アルツハイマー病を含む若年性認知症は、有病者3万5700人(注)。老年性と比較すると非常に少ない。しかし、アルツハイマー病が発見された当時は、40代、50代の若い人に起こる病気と考えられていました。

 アルツハイマー病を最初に報告したのは、ドイツの精神医学者アルツハイマー博士です。1906年のこと。51歳で亡くなった女性の症例を発表したのです。それから約120年、研究が進み、若年性も老年性も、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積することから始まる病気だということがわかり、現在は、その蓄積をどうにかできないか、というところにスポットが当てられています。

 12月5日付号の本欄で、「若年性はいわば“ピュアなアルツハイマー病”」と述べました。老年性は脳の老化が基盤にあり、そこにアミロイドβの蓄積がもとになって起こる脳の神経細胞の変性・死滅で発症する。一方で、若年性アルツハイマー病は老化がない状況で発症する。なぜそのようなことが起こるのか? 糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病、アルコールの過剰摂取、運動不足、不規則な生活など要因はさまざま考えられ、ひとつに絞ることはできません。ただ言えるのは、若年性アルツハイマー病の数は少ないとはいえ、老年性と同様に、「私は絶対にならない」とは言い切れない病気だということです。

【注】日本医療研究開発機構認知症研究開発事業による「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システムの開発」(2020年)から

若年性では広い範囲でダメージが…
若年性では広い範囲でダメージが…

 若年性アルツハイマー病の平均年齢は51歳。ほとんどが50代で発症し、40代での発症例は多くありません。20~30代というかなり若い年齢で発症するケースもありますが、遺伝を原因とする家族性アルツハイマー病で、全患者さんの1%以下と、ごくまれです。

 認知症の症状は、脳の神経細胞の変性が原因で起こる「中核症状」と、中核症状によって状況に適応できなくなり、行動面や心理面で症状が出る「行動心理症状(BPSD)」に大別できます。

 中核症状は、物忘れ、場所や時間などが認識できない見当識障害、失語、失行、失認など。認知機能が低下すれば誰にでも現れる症状です。

 それに対し行動心理症状は、不安、抑うつ、興奮、妄想、幻覚、徘徊、暴言・暴力など。

 若年性アルツハイマー病も、老年性も、中核症状や行動心理症状があるのは共通していますが、若年性は症状の進行スピードが速い(とはいっても、認知機能低下は年単位で進むので、急激に悪くなるということではありません)。

 通常、アルツハイマー病は、記憶をつかさどる海馬(側頭葉の内側)と頭頂葉が病変の中心となります。しかし、若年性では、前頭葉、側頭葉も含めた広い範囲がダメージを受けるので、症状が多彩になりやすい。また、「巣症状」が、老年性より出やすいことも指摘されています。巣症状の代表的なものは次の通りになります。

【失語】音として聞こえているが、言葉や話として理解すること、自分が思っていることを言葉として表現することが困難。

【失行】日常的な動作や行動が困難になる。例えば、着替えができない、道に迷うなど。

【失認】自分の体の状態や物との位置関係、目の前にあるものが何かを認識するのが困難になる。

 若年性では、仕事や家事、子育てなどで社会との関わりが多く、周囲の人とのコミュニケーションを取りながら行動しています。そのため、うまくいかないことが増えるとイライラしたり落ち込んだりして、結果、不安、うつ、興奮、妄想などの行動心理症状も出やすくなる。

 若年性も老年性も使う薬は共通していますが、若年性アルツハイマーの患者さんには、不安やうつなどを改善するために、抗不安薬やSSRIなど精神疾患の治療に用いる薬を処方することもよくあります。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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