がんと向き合い生きていく

貝原益軒の「養生訓」を読んだ医師「いかに持続的に実行できるか」

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 A医師は1カ月ほど前から、お昼近くになると上腹部にきりきりとした痛みがありました。先週、思い切って仕事を休んで、胃と大腸の内視鏡検診を受けました。

 内視鏡検査医からは、「胃と十二指腸に赤い糜爛がみられましたが、がんはありません。大腸はきれいで、ポリープもありませんでした。きっと痛みは糜爛のせいだと思います。先生は夏休みもほとんどとれなかったから、疲れておられるのではないですか? 休暇をとって、旅行でもされたらどうでしょうか?」と言われました。

 それでも、検査後はホッとしたためか、その症状が軽くなりました。ただ、近く学会発表があります。その準備もあるので、同僚にお願いして3日間、しっかり休んでみることにしました。

 その翌週、休みが明けて出勤したA医師は、「絶好調!」と元気です。

 そんなA医師に、3日間の休みをどう過ごされたのか聞いてみました。以下、A医師の3日間のお話です。

 ◇  ◇  ◇

 1日目は、能楽堂で能を見てきました。能は見ている人の脳波にα波が出るようにし、心地よくなって、心を和らげて元気にするらしいのです。能は寿命を延ばす、体も楽になると、以前、ラジオで聞いていたのです。

 能楽堂には、これまで2回ほど付き合いで行ったことがあるのですが、なにも分からなくて、飽きてきて、眠いだけでダメでした。でも、ラジオの話を聞いてからの今回は、ちょっと違う気がしました。α波が出たかどうか分かりませんが、ただボーッとして、心地よい感じで見てきました。

 2日目は、貝原益軒の「養生訓」を解説したものを読んでみました。貝原益軒のことは、その遠縁にあたる方が古いアルバムの集合写真に写っているのを見て、ふと思い出したのです。

「養生訓」の中身は、こんなことが書いてありました。適度の運動。心を穏やかに保つ。バランスよく食べる。塩分は少なく。病気にならない努力をする。朝食が消化しないうちに昼食はいけない。心は楽しく苦しむべからず……。それから、「たばこは毒である」ともあって、これも江戸時代から言われていたのですね。今はがん対策推進計画に書いてあります。

 国立がん研究センターがん情報サービスによると、「バランスのよい食生活」「適度な身体活動」「適正体重の維持」「節酒(飲酒する場合には節度のある飲酒を)」に「禁煙」を加えた5つの生活習慣に留意することで、がんのリスクが、男性で約45%、女性で約37%低くなるという推計があります。

 それから、2日目の夜は、昨年、精神科医の神田橋條治先生から送っていただいた「心身養生のコツ」を読んでみました。これも、心と体の良い養生法を書いたものです。

「養生訓」も「心身養生のコツ」も、読んでいる時は分かったような気がしますが、問題は、これをいかに持続的に実行できるかですよね。誰かと一緒にやらないと、ひとりでは三日坊主に終わりそうです。

 3日目は、寒かったですが5キロほどジョギングしました。結構、喉が渇きました。

 ジョギングの後、風呂に入ってから、ノンアルコールビールを飲みました。そうしたら、顔が赤くなって、空酔いというのか、明らかに酔った気分になりました。缶を見直してみても、間違いなくアルコールゼロと書いてあります。それでも、ホカホカ体がほてるのです。やっぱり、ノンアルコールが効いたみたいでした。

 3日間、リラックスして過ごそうと思って、能を見て、本を読み、ジョギングしたのですが、いちばん元気が出たのは、スマホに送られてきたその動画を見た時です。たったひとりの孫息子の誕生祝いの動画でした。この可愛いの、可愛いの……。どこのじいやもそうかもしれませんが。上腹部のきりきりはすっかり忘れました。

  ◇  ◇  ◇

 十分にリフレッシュできた3日間だったようです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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