年末年始、帰省で久しぶりに親御さんと会うという方もいるでしょう。大いに会話を楽しんでもらいたいと思います。
年を取ると、同じ話を繰り返してしまいがち。「その話、さっきも聞いた」「同じ内容ばかりがぐるぐる回っている」など、親御さんと話していて感じたことがある人は結構いるのでは? 他人であればじっと耳を傾けていられることでも、家族というものは難しいもので、つい話を遮ってしまう。
また、記憶違いを指摘してしまうことも。「お母さん、言っていること間違えているよ! 本当は〇〇〇だったよ!」といったように、ですね。遠慮のない家族間だからこそ、起こり得そうです。同じ話を繰り返す人に、それを指摘するのがいいのか悪いのか。一概に「悪い」とは言えず、ケース・バイ・ケースです。
しかし、相手が同じ話を繰り返していることに気が付かないでいる場合、「さっきも言った」という指摘は、相手に混乱や不安を与える可能性があります。
何より、楽しく話している時に横やりが入ると、あまりいい気持ちはしませんよね。普段会っていない人との会話は、老いも若きも、健常者だろうと認知機能が低下していようと、脳への刺激になります。昔の話は、それを思い出して言葉にしたり、逆に相手の話を聞いて思い出したりすることで、脳が活性化し、活動性、自発性、集中力の向上にもなります。
時間的、経済的な問題で、家族全員での帰省は難しい。そういう場合は、オンラインを通して会話する時間を設けるのはいかがでしょうか?
私のクリニックで開く「健脳カフェ」では学生たちが高齢者の方と世代間交流をしていますが、学生の卒業研究によると、人との関わりは幸福度が上がり、特に孫などとの関わりでは、オンラインでも対面とほぼ同じ幸福感を得られるとの結果が出ています。
■「認知症チェックテスト」をやるのはお勧めできない
私たち医療者が用いる認知機能評価検査は、今、ネット上でも出回っています。
「お父さん・お母さんとやってみた」と話す方が時々いるのですが、私はそれは全くお勧めしていません。
こういった検査は、検査する側の力量、これを「検査者能」と呼んでいるのですが、それが非常に大切です。娘さん・息子さんが親御さんに、ネットで見つけた検査に沿って質問し、「こんなこともわからないの?」「点数が、正常を下回っているよ」と指摘してしまう──。
娘さん・息子さんにとっては親御さんを心配しての行動であり、また、検査の結果に愕然として思わず口にしてしまった発言であるのでしょうが、親御さんにとっては、かなりの傷つく経験となるでしょう。
そもそも認知機能評価検査は、病院で医療従事者が行うにしても、高い検査者能が求められます。
「今日は何日ですか?」「あなたがいるところは何階ですか?」といった質問は、検査を受ける方の自尊心に影響を与えるものですし、それらがわからないとなると傷つき、不安になる。
心理的負担が大きい検査との指摘も受けています。実際、病院で心が傷つくような検査を体験したために、それ以降、もう病院に行きたくないとなる方もいるのです。
だから私は慎重に検査を行いますし、本当に必要な時以外、検査を行わない。スタッフや学生には、「検査者能を高める。検査は目的ではない。その方に必要な情報を得るためにわれわれが努力することが重要」と伝えています。
もし親御さんの言動で「あれ?」と思うことがあれば、まるで試すかのようにネット上の検査を我流でやったりせず、私たち認知症の専門家に相談してほしい。認知症の専門医は、「日本認知症学会認定専門医リスト」「日本老年精神医学会ホームページ」「全国もの忘れ外来一覧」がネット上にあるので、参考にしてください。
また、いきなり病院へ行く(連れて行く)のがハードルが高ければ、全ての市町村に設置されている地域包括支援センターに相談するという方法もあります。認知症に関する電話相談もあります。
◆地域包括支援センターとは
介護、医療、保健、福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」。公立中学校の学区と同じくらいの割合で存在する(2万~3万人程度の住民に対して1カ所)。専門知識を持った職員(保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員など)が相談に応じてくれる。離れて暮らしている親についての相談をする場合は、親が住んでいる市町村の地域包括支援センターへ相談すること。なお、地域包括支援センターの呼び名は、「高齢者相談センター」「シニアサポートセンター」「あんしんすこやかセンター」など多少異なることも。迷った際は、各自治体へお問い合わせを。
第一人者が教える 認知症のすべて