がんと向き合い生きていく

これからは75歳以上のがん医療についてもっと検討しなければならない

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 がんの予防には、「1次予防」と「2次予防」が考えられています。

 1次予防では、予防可能ながんリスク因子である生活習慣(食生活、身体活動、喫煙および受動喫煙等)の改善と、がんを発生させる感染症の対策が考えられます。

 生活習慣では、「禁煙」「バランスの良い食生活」「適度な身体活動」「適正体重の維持」「節酒(飲酒する場合は節度ある飲酒)」などがあげられます。それらが適正に行えれば、がんのリスクが男性で約43%、女性で約37%低くなるという推計があります(国立がん研究センターがん情報サービス)。

「禁煙」は言うまでもありません。電子たばこにおいても発がんのリスクは同様です。

「食生活」では、1日の塩分の摂取量では8グラム以下(都民の平均は男性11グラム、女性9グラム程度で推移=東京都保健医療局)、野菜は350グラム以上(都民平均300グラム前後で推移=同)が推奨されています。

「適度な身体活動」と「適正体重の維持」については、この3年間、コロナ流行で通勤がなくなりテレワークとなって自宅にこもった方、運動不足でスポーツ活動が減り、適正体重(BMI:体重【キログラム】を身長×身長【メートル】で割った数)21.5~24.9が維持されなくなった人などは、改善を心がけていただきたいと思います。

 がん発症に起因する感染症は、ウイルスでは肝炎ウイルス、子宮頚がんウイルス(HPV)、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)があげられます。予防接種としてB型肝炎ワクチン、HPVワクチンがあります。感染の予防対策と、ワクチン接種を正しく行っていただきたいと思います。

 細菌ではヘリコバクター・ピロリ菌が胃がん発生に関与していることが分かっており、抗生剤による除菌が行われています。

■がんの診断技術の進歩は目覚ましい

 2次予防は、早期発見のためにがん検診が勧められます。がんの診断技術の進歩は目覚ましいものがあり、マンモグラフィーで乳がんが0期で発見された場合、悪性度が低ければ手術せずにホルモン剤で経過をみることも臨床試験で行われています。乳がんで、切除しないで済むとなれば画期的なことと思います。

 また、がんの画像診断には人工知能(AI)が応用され、より精密に、そして見落としが少なくなることが期待されています。

 がんの75歳未満の年齢調整死亡率は、全国では、平成28(2016)年には76.1でしたが、令和3(2021)年には67.4と約11.4%減少しています。がんの部位別の死亡率の推移では、男性では胃がん、肺がんおよび肝がんによる死亡率が、女性では胃がんおよび肝がんによる死亡率が減少しています。

 ただ、これはあくまで年齢調整死亡率であり、がんによる死亡数は1981年から40年以上連続で死因のトップです。日本の全人口は減ってきていますが、65歳以上の人口は増加しており、これからも高齢化によるがん患者数が増加することが予想されています。2021年にがんに罹患した人は約100万人、死亡した人は38万1505人(男性22万2467人、女性15万9038人)で、全死亡総数の26.5%を占めています。

 高齢者人口は、「団塊の世代」が65歳以上となった平成27(2015)年に3387万人となり、団塊の世代が75歳以上となる令和7(2025)年には3677万人に達すると見込まれています。その後も高齢者人口は増加傾向が続き、令和24(2042)年に3935万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されています。

 高齢者にがんが多い理由は、年齢を重ねた身体は細胞の発生においてエラーが多くなり、その修復能力が下がるため、つまり免疫力が落ちるためと考えられています。これからは75歳以上のがん医療について、もっと検討しなければならないと思います。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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