「目を離したすきに、母が自分で痛み止めの麻薬を一気に4つも飲んでしまったみたいなんです。なにか気をつけたほうがいいことはありますか? いま本人は特にいつもと変わりないのですが……」
24時間診療に対応している私たちの診療所ではさまざまな電話相談が寄せられます。
電話相談の内容は、医師やスタッフに来てもらうまでもないが、でも患者さんやご家族にとってはとても気になること、どうしても確認しておきたい体調や薬について、さらには家庭環境など多岐にわたっています。患者さんやそのご家族にとっては、私たちから直接対応法などを聞けて、安心できるもの。それは在宅医療が患者さんの病気にだけ向き合っているのではなく、患者さんの自宅での療養生活そのものの面倒を見るからだと考えています。いわば、患者さん側と診療所側をつなぐ、大切な心のライフラインなのです。
「今まで全然介護に関わってこなかった姉たちが急に家に引き取るとか言って、母と私を引きはがそうとするんです。私の家なのにいろいろ情報を探そうと、郵便物とかをあさって本当に怖いんです。お医者さんから会わないように言っていただけませんか!」
複雑な家庭環境や遺産相続に関する問題について、患者さんのご家族からお電話をいただくことも。私はこのような時は努めて、ご本人の気持ちの整理がつくまで傾聴し、診療所としてできることをお伝えするようにしています。
「今日は反応が悪く、体の動きが悪いです……。ストローで水分を取っているんですが、今日は吸えなくて。お返事がなく、言葉が発せられない! 一晩で様子がごろっと変わりました! おむつ交換の時、声をかけると顔はそっちに向いても体が動かないんです」
この時は患者さんのお手伝いさんからのもの。違和感があり怖いからとのご相談の連絡でしたが、このお手伝いさんの違和感は間違いありませんでした。
すぐに私たちがご自宅に向かうと、お手伝いさんが言うように、いつもと様子の違う患者さんがベッドに横たわっていました。診断の結果、脳梗塞の疑いで救急搬送され、病院の集中治療室で治療を受けることになったのでした。
このように訪問診療では、多様な患者さんやそのご家族のヒューマンドラマが繰り広げられます。とりわけご家族にとってみれば、人生の終わりが近い身内を前に、恐怖を感じたり取り乱したりすることは誰でも自然なことだと考えます。
ですが、私たちが患者さんのご自宅に伺った時の対話、それにプラス、電話による連絡を日ごろから受けていることによって、状況を整理してお話しいただける……。
相談者の気持ちに寄り添い、適切に医学的な判断をお伝えすることは非常に重要。それが、ご家族の不安を少しでも軽減させるのに有効であり、在宅医療だからできるサポートの方法ではないかと考えています。