日本版「足病医」が足のトラブル解決

なぜ、いまの日本で足の専門医が求められているのでしょうか?

(提供写真)
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 アメリカには医師や歯科医師のように、足のトラブルを専門に診療する「足病医(ポダイアトリスト)」がいるのはご存じでしょうか。

 一般の医師とは異なる国家資格で、4年制大学を卒業後、足病学の専門大学に進学し、卒業後はさらに3~4年間の研修を受けたのち資格を取得することができる専門医で、アメリカには約1万人以上の足病医がいるとされています。

 足病医学はアメリカですでに100年以上の歴史があり、靴を履く習慣から足のトラブルを抱える人が多かったことで発展したといわれています。

 日本で足病の専門分野と専門医の国家資格がなぜできなかったのか理由は分かりません。推測するに、日本の場合、明治時代初期の文明開化まで靴を履く習慣がなかったので足のトラブルが比較的少なく、足病医学が発展してこなかったと考えられています。

 現在も日本の医学教育の現場には足病に関する教育プログラムがなく、国内には足病を総合的に診察できる医師がほとんどいない現状です。

 患者さんも、足の痛みやむくみの症状で受診しようと思っても、足病科がないので何科を受診すればいいか分からず、病院を転々としているうちに病気が進行しているケースが少なくありません。

 とりわけ早期発見が求められるのが「糖尿病性足病変」です。糖尿病の合併症である神経障害が進行すると感覚が弱くなって痛みを感じにくくなり、足にトラブルがあっても気付かずに放置してしまう。さらに血流障害も合併していると、酸素や栄養が足全体に行き渡らず潰瘍や、進行すると足が腐る壊疽に至り、足の切断を余儀なくされてしまうのです。

 切断を防ぐには早期発見、早期治療だけでなく、そもそも発症させないといった予防的な医療がより多くの患者さんを救えると考え、2019年に大学病院で国内初となる「足の疾患センター」を当院に設立しました。

 整形外科、形成外科をはじめ、血管外科や皮膚科、循環器内科や糖尿病内科などさまざまな領域の専門医・装具士などの多業種が集結し、足の症状から分かる神経内科の疾患や血液病、膠原病など、幅広い疾患の診断を行っています。

 さらに近年は超高齢化に伴い、健康寿命を延ばすためには歩行の維持が求められています。歩くことは認知症や糖尿病だけでなく、がんや心血管疾患の発症予防にも深く関わっていると報告されています。

 また、核家族化により、老老介護や独居の高齢者も増加し、しっかり歩けないと介護だけでなくご自身の生活もままならなくなるでしょう。

 人生100年時代を全うするためにも、足の健康維持は欠かせないのです。

 次回から足のあらゆる症状についての疑問にお答えしていきます。

田中里佳

田中里佳

2002年東海大学医学部卒業、04年同大学形成外科入局、06年米国ニューヨーク大学形成外科学教室留学、12年順天堂大学医学部形成外科学講座准教授、医局長を経て現職を務める。

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