お酒でトラブルの経験があるなら「減酒外来」を受診したい

近年「減酒外来」が注目されている
近年「減酒外来」が注目されている

 年末年始は飲み会の機会が増えた人も多いだろう。ただ、気を付けているはずなのに飲み過ぎて昨日の記憶がない、ひどい二日酔いで動けない経験がある人は、軽度のアルコール依存症の可能性が高い。近年、注目されているのが「減酒外来」だ。実際に外来診療を行っている「大石クリニック」院長の大石雅之氏に聞いた。

 40代の女性は、毎日お酒を飲む習慣があり、普段から夫や子供に「酒臭い」と指摘されていた。ある日、子供が所属する少年サッカークラブの打ち上げで泥酔して息子に恥ずかしい思いをさせてしまい、アルコール依存症かもしれないと減酒外来の受診を決意した。

 アルコール依存症は、長期にわたって飲酒習慣が続くことでアルコールに対して精神・身体依存を来す精神疾患だ。国内に約100万人いるとされるが、実際に医療機関で治療を受けているのはわずか8万人とされている。これまでアルコール依存症の治療は「断酒」を目標に重症者だけが対象とされていた。しかし2018年、日本アルコール関連問題学会によって発表された「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」では、軽度のアルコール依存症患者にも焦点が当てられ、断酒だけでなく「減酒」の治療目標が新たに加わった。

「アルコール依存症は、ある日突然発症するわけではなく、徐々に軽度から重度へと悪化していきます。重度になると幻覚を見たり、夫婦ゲンカが絶えず離婚に至ったり、仕事に行けず解雇されたりと、日常生活や社会生活の破綻につながります。健康診断の数値を改善したいけれど断酒はハードルが高い、そんな人は『減酒』から始めるのもおすすめです」

 次のチェックリストに当てはまる人は減酒外来の対象となる。

・健康診断でお酒を減らすよう指摘されている。
・つい飲み過ぎて記憶をなくす。
・二日酔いがひどく仕事に支障を来す。
・お酒で失敗し恥をかいた経験がある。

「減酒外来ではひどい二日酔いで悩んでいる軽度の人から周囲からお酒をやめるよう言われているがやめられない重度まで、幅広い患者さんが受診しています。治療法は薬で減酒する方法と、薬に頼らず自力で飲酒量を減らしたり休肝日を設ける方法の2つがあり、ご自身で選択してもらいます。初診時に血液検査を行い、2週間後の外来で数値に変化があるかを確認します」

■薬で飲酒量を抑えられる

 これまで、アルコール依存症の治療には「抗酒剤」が用いられていた。服用中にお酒を飲むとひどい吐き気や嘔吐、頭痛が生じるので、断酒を決意させる効果がある。しかしその一方、不快感を避けるために抗酒剤の服用を中断する人が少なくなかったという。2019年3月、減酒治療の治療薬として発売された「セリンクロ(一般名:ナルメフェン)」は、お酒を飲む1時間前に1~2錠服用すると、飲酒欲求が抑えられ少量で満足感が得られる上に、抗酒薬のような不快感もない。

「ある50代の患者さんは、日本酒を毎日欠かさず5合飲む習慣があり、健康診断で肝機能を測るγ-GTP(基準値50)の数値が300と指摘されたものの、毎日の楽しみを失いたくないと減酒外来を受診しました。最初は週1日の休肝日から始め、2週間後の外来で数値が改善したのを見て自信がついたのか、休肝日を週2日、3日と徐々に増やして最終的には断酒に至り、γ-GTPも基準値まで低下しました」

 前出の40代女性はセリンクロの服薬治療を選択。飲み会の前に服用し、これまで記憶をなくすまで飲み続けていたのが、ビール2~3杯で十分な満足感を得られるまでに飲酒量が減少した。それからも少量飲酒が習慣付き、量を自己コントロールできるようになったことで4カ月目に通院治療を終了した。

 海外で行われた研究でも、セリンクロ20ミリグラムを飲み続けることで約40%は半年後に減酒だけでなく断酒に成功したと報告されている。

 お酒との付き合い方を変えたいなら、減酒外来から始めてみてはどうか。

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