簡便・負担少・短時間…AI&デバイスを使った新たな認知症診断

早く発見し対策を講じれば進行を遅らせることができる
早く発見し対策を講じれば進行を遅らせることができる(C)日刊ゲンダイ

 認知症の6~7割を占めるアルツハイマー病は、早くに発見し対策を講じれば、進行を遅らせられることがわかっている。さらには、画期的な新薬も登場している。

 2023年、これまでにないアルツハイマー病の新薬が米国と日本で承認された。「レカネマブ」だ。従来薬と大きく違うのは、「アルツハイマー病の根本的治療につながる可能性がある」という点だ。

 ただ、レカネマブの効果を享受できるか否かは、投与のタイミングが鍵を握る。岡山大学脳神経内科・山下徹准教授が説明する。

「アルツハイマー病の大半は症状が出るのは73~75歳くらいですが、50歳ごろから病気が進行しています。背景にはメタボリック症候群や生活習慣病が最初のステップとしてあり、それらを放置するとアミロイドβというタンパク質が蓄積されていきます」

 アミロイドβが沈着すると、タウというタンパク質がたまり、これらには神経細胞毒があるため、脳の神経細胞が死滅する。生活習慣病↓アミロイドβ沈着↓タウ沈着↓神経細胞死滅という4つのステップを経て認知症を発症するのだ。

「現時点ではレカネマブなどの抗体薬(囲み参照)は認知症の初期段階でなければ処方ができない。そのため、いかに早く見つけるかが重要です」(山下准教授)

 現在行われている認知症の検査は、MMSEや長谷川式などの認知機能検査。これは「時間がかかる」「難聴だと困難」「コロナ禍においては感染リスクが高い」などの課題がある。

 新薬のレカネマブは、臨床診断に加えて、脳へのアミロイドβの蓄積が証明されなければ使えない。その検査として髄液検査やアミロイドPETという検査があるが、髄液検査は侵襲的で被験者の負担が大きく、アミロイドPETはレカネマブ投与の要否を判断する場合において保険適用になったものの、実施している施設は限定的だ。

 そこで現在開発が進められているのが、AIや多様なデバイスを活用した認知症診断。ポイントは、簡便、被験者&検査を行う側の負担が少ない、検査時間が短いなど。これらによって、速やかに認知症の診断ができるようになる。

■カレーで使われるスパイスを活用

 認知症スクリーニングの診断アプリとして日本で初めて医療機器の薬事承認を受け、早ければ春から全国の医療機関で受けられる見通しなのが、本紙1月10日付で紹介した「モニターを見るだけで認知症かどうかを診断できる認知症検査システムのアプリ」だ。

 カレーで使われるスパイス、ターメリック(=ウコン)を活用した検査法も開発に向けて検討が開始されている。

「アミロイドβは脳内だけでなく網膜にも蓄積します。そしてターメリックに含まれるクルクミンはアミロイドβと結合する性質があり、さらに自家蛍光の性質もある。そこで、クルクミンを患者さんに飲んでもらい、OCT検査(近赤外光を利用して網膜の断面像を得る検査)を実施。アルツハイマー病患者さんでは、網膜のクルクミン沈着、すなわちアミロイドβの沈着が明らかに増えていることが確認されました」(山下准教授)

 前述したアミロイドβの沈着を調べる髄液検査、アミロイドPETと比較すると、はるかに簡便、低侵襲、経済的だ。

 血液検査でアルツハイマー病を調べられないか、という研究も行われている。

「アルツハイマー病の病態に関与しているとみられる4つのペプチド(血中のタンパク質断片)がわかっています。血液検査で血液中のペプチドを網羅的に解析し、アルツハイマー病かどうかを診断する」(山下准教授)

 臨床現場での実施が決まっているのは、現時点では「モニターを見るだけで認知症かどうかを診断できる認知症検査システムのアプリ」だけだが、そう遠くない将来、他の検査法も活躍するようになるに違いない。

 結果、認知症コントロールが可能になっていくことが期待できる。

▼抗体薬とは

 抗体薬とは抗体を利用した薬で、細胞表面の目印となる抗原をピンポイントで狙い撃ちする。アルツハイマー病ではアミロイドβを攻撃し、除去する。レカネマブの他にも、アルツハイマー病に対する抗体薬の開発が進められている。

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