Dr.中川 がんサバイバーの知恵

百田尚樹さん、大友康平さんが相次いで…腎臓がん4cm以下はラジオ波で焼き切る

大友康平さん
大友康平さん(C)日刊ゲンダイ

 作家の百田尚樹さん(67)に続き、ハウンドドッグの大友康平さん(68=写真)も腎臓がんであることを公表しました。

 昨年11月の定期的な健康診断で異常を指摘され、精密検査で腎臓がんと判明したそうです。近く入院して手術に備えると報じられています。

 一方、百田さんは腎臓に2つの腫瘍があるうちの1つをラジオ波焼灼療法で治療して、手術は成功。残りについても、来月に同じ手術を受けるといいます。

 ラジオ波焼灼療法は、CTなどの画像を見ながら腫瘍に電極の針を刺して、電磁波を流して腫瘍を焼き切る治療です。電磁波を利用して温度を上げるのは電子レンジと同じ原理で、違うのは周波数。治療に使う電磁波の周波数は電子レンジより低く、ラジオに近いのがラジオ波と呼ばれるゆえんです。

 この治療は元々、肝臓がんで行われていました。2022年9月から保険適用が拡大され、腎臓がんの一部や肺がん、骨盤内腫瘍などにも行えるようになったのです。

 一般にラジオ波焼灼療法は局所麻酔で行える上、腫瘍をピンポイントで焼き切ることができます。体への負担が少なく、各臓器の機能を温存できるのが大きな利点でしょう。

 1回の通電時間は5~10分ほど。腫瘍が複数、あるいは大きい場合は、処置を数回繰り返すことになります。

 腎臓がんの場合、大きさが4センチ以下が対象ですが、その中でも1~3センチ以下で、血管やリンパ管などへ浸潤、転移がないタイプがより効果的とされます。これにマッチして治療の対象になるのは4割程度です。

 しっかりと焼き切るには、針を刺す経路選択が大切で大きくなるほど難しい。また、その経路に大腸や血管があったり、周りに腸管やすい臓などが近接していたりすると、それらを避けて針を刺す経路を確保することになります。

 それらに傷がつくと、血腫や血尿、消化管損傷などの合併症の恐れもゼロではありません。そのリスクを最小限に抑えながら適切に治療を行うことができれば、メスによる切除と同等の治療効果が期待できます。複数のがんがあって小さい人や高齢者、すでに片方の腎臓を失っている人などにはお勧めです。

 ただし、百田さんは手術中、「痛い、痛い、痛い」と激痛に襲われたといいます。実はがんの治療に伴う痛みのケアについては日本は残念ながら遅れていて、私も膀胱がんの手術後に強い痛みがありました。麻酔が切れたためですが、胃がんや肺がんなどの手術でも疼痛対策が不十分なことが少なくないのが現実なのです。

 この治療はあくまでも手術の1つで、まれに重篤な合併症もあります。治療経験が豊富な医師の元、説明をしっかりと聞いて納得したうえで受けることが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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