老親・家族 在宅での看取り方

誤嚥のリスクが多少あっても好きなものを食べさせてあげたい

好きなものを食べられると気持ちは前向きになる(写真はイメージ)/(C)iStock
好きなものを食べられると気持ちは前向きになる(写真はイメージ)/(C)iStock

「本日診察しまして、ご本人はおいしくないからとペースト食ではなく、普通の食事がいいと相談を受けました。それがだめなら、せめて主食はお粥がいいとおっしゃっていました。多少リスクはありますが、普通のおかずよりはお粥のほうがイレウス(腸閉塞)の再発リスクは少ないと思いまして、主食のみお粥に替えることにします」(私)

 高齢の患者さんを比較的多く診ている当院では、介護者のほとんどが息子さんや娘さんといった現役世代。そのため、昼間の診療には仕事で同席できない方も多いです。「診療時の様子を聞きたい」と後からお電話をいただくことは珍しくなく、その場合は移動中や診療後など、時間の許す限り丁寧に病気の説明や介護のアドバイスをするように心がけています。

「徐々に食べられるものを増やしていければと思います」(私)

「はい」(息子さん)

「おかずはいろいろな種類があるので、いったんペースト食で様子を見ましょう」(私)

 この患者さんはイレウスと誤嚥性肺炎により、緊急搬送と入退院を繰り返している70歳代の女性の方。

 息子さんから「母は食べることが大好き。好きなものを食べるだけで気分も明るくなるから、なるべく好きなものを食べさせてあげたい。今後の食事をどうしたらよいか」といった相談をいただきました。在宅医療では基本的に病状に差し障りがない限り、患者さんの食事に関してなんら制限はありません。ですがこの患者さんのように術後で腸の動きが弱まっていると、腸に負担をかけない食事が重要になるのです。とはいえ、この患者さんの場合、ご本人もリスクを承知で、好きなものを食べていつも通り暮らしたいという願望をお持ちでした。

「もし、このおかずなら大丈夫というものがあれば教えてほしいです」(息子さん)

「プリンみたいなものなら問題ないでしょう」(私)

「わかりました。そういうものを買ってみます」(息子さん)

「あと、母はカルピスが好きで毎日飲んでいるのですが、とろみをつけるとおいしくないと。普通の水は誤嚥の危険性はありますか? 少しでも気分を明るくさせたいんです」(息子さん)

「薄くとろみでもつけておいたほうがいいかなと思います。1口の量はスプーンですくって2㏄くらいで、1口につき、ごくん、ごくんと2回くらいに分けて飲んだ方がいいかと思います。もし大丈夫そうであれば、とろみを減らせるよう挑戦していきましょう。好きなものを食べられるだけで、生活の質はあがりますもんね」(私)

「いつもご丁寧にありがとうございます」(息子さん)

 好きなものを食べられるだけで気持ちは前向きになります。息子さんの優しい思いに共感し、私たちも精いっぱい協力しようと励まされた気持ちになったのでした。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

関連記事