正解のリハビリ、最善の介護

リハビリ主治医に適切な「栄養管理」が求められるのはどうしてか

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏
「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

 適切なリハビリを受けるため、より良い回復期病院を選ぶためのポイントのひとつが「リハビリ主治医の力量」です。

 リハビリを開始しても、想定していた回復の度合いまで上がってこない場合、原因を見極めて修正する必要があります。主治医にはそのための能力が求められるのです。

 リハビリを開始した患者さんの回復ペースが上がらない場合、「栄養障害」を起こしているケースがあります。ですから、「適切な栄養管理をできるか」が主治医の力量を測る判断材料として挙げられます。

 病気や治療後の障害により機能や能力が低下している患者さんの人間力を回復させるためには、適切な食事とリハビリによって筋肉量を増やし体力を取り戻すことが重要です。

 しかし、患者さんに栄養障害があって低栄養=フレイルの状態では、十分なリハビリの効果は得られません。

 低栄養や不適切な栄養管理のまま積極的なリハビリを行うと、エネルギーが不足します。すると不足したエネルギーを補充するために筋肉が分解され、逆に筋肉量が減少してしまいます。そのままリハビリを続けても、筋肉量がどんどん減って回復のペースも上がらない悪循環を招くのです。

 患者さんの栄養障害を改善させるには、個々の病状にもよりますが、タンパク質の補充が基本になります。日々の食事に加え、プロテインを摂取してもらいます。

 摂取量は一般的には「患者さんの体重×1.2グラム」に設定されますが、筋肉量が低下していたり、体力が落ちている患者さんでは「体重×1.5グラム」くらいの量が必要になるケースもあります。患者さんのBMI(体格指数)や体重減少率などを把握しながら、適切な量のタンパク質をゼリーやジュースの形のプロテインで補充するのです。

■十分なタンパク質を補充していない施設もある

 しかし、中には「体重×0.7~0.8グラム」程度の量しかタンパク質を提供していない病院もあります。適切なリハビリを実施するためには十分な量のタンパク質が必要だと主治医が気づいていなかったり、その患者さんに必要なタンパク質の量を計算せずに食事をルーティンにオーダーするケースもあるのです。

 タンパク質=プロテインでの補充だけでなく、「ある程度のカロリー摂取が必要だけれど、カロリー制限も行わなければならない」「ビタミンの摂取は最低限これだけの量が必要になる」といったように、主治医は患者さんの病状と栄養状態を把握したうえで、筋力や体力が回復できる栄養管理をおいしい食事として提供するのが回復させるコツです。しかし、その当たり前が実践できていない医師や病院も少なくありません。適切なリハビリの効果を得て、事前に予測したレベルで人間力を回復させるためには、主治医には、食事の内容や量、味、体重や筋肉量、普段の活動の様子などを総合的に把握して、栄養とリハビリのバランスを調整していく力量が必要なのです。

 睡眠障害、覚醒障害、栄養障害のほかにも、回復が上がらない原因はまだあります。それが「痙縮」です。

 当連載の第8回で詳しくお話ししたように、痙縮というのは、脳内の神経伝達物質の分泌のバランスが崩れてドーパミンが不足し、体全体の筋肉や関節が硬直して動かなくなり、寝たきりになってしまう状態です。自分の意思で体を動かすことができないので積極的なリハビリは行えません。

 その予防のためには、常に全関節可動域を十分に動かし、全身の姿勢のコントロールを保ち、かかとを正確に接地して上肢や下肢を重力に抗して最大限に長く動かしていくことが大切です。さらに、重症例では筋弛緩薬のバクロフェンなどのクスリを使いながらリハビリを進めていく治療が必要になります。

 このように、リハビリによる回復の度合いが上がってこない場合、主治医がその原因をきちんと見極められれば治療による介入ができます。しかし、主治医の力不足で原因を把握できないと、「この患者さんの回復は、この程度で仕方がない」で終わってしまいます。だからこそ、より良い回復期病院を選ぶためには、患者さんを回復させる意欲のあるリハビリ主治医が在籍しているかどうかを確認するのが重要なのです。

 ただ、その回復期病院に本当に良いリハビリ主治医がいるかどうかは、外からではなかなかわからないのが実情です。ですから、回復期病院を選ぶ際は、まず治療成績が良い施設を候補に挙げ、治療を受けた急性期病院の担当医に、「その病院にリハビリ転院すれば良好な回復が期待できるのでしょうか」と確認したり、回復期病院を紹介してもらう際に「きちんと回復させてくれるリハビリの先生がいる病院をお願いします」とオーダーするといいでしょう。

酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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